魅惑の花蜜で愛に狂う (有川七緒)
「せ、せんせっ……んゃあ、あん……くっ、ひぃぃあぁ……もう、い、いかせ……て……」
郁の嬌声が病室内に木霊する。彼の起立には根元に包帯が巻きつけられていて射精することを許されていない。それはぴくぴくとうち震え、先端からは大量の先走りが溢れ出ていて根元に巻きついている包帯をぐっしょりと濡らしていた。
「まだですよ。もっとイクことで頭がいっぱいになったらいかせてあげますよ」
郁をこの状態へと導き、今も過ぎた快楽で苛み続ける三宮は責める手を緩めることはなく、根元から上に向かって扱きあげて先端の割れ目をぐりぐりと抉るように指で刺激する。三宮は郁の起立を責めると同時に胸の飾りも摘みあげる。そのたびに郁は声をあげ快感に濡れた瞳を三宮へと向ける。
郁の小ぶりだった胸の果実は紅く色づき、一回りほど大きく成長している。
「ひっ、あぁぁぁ……ちゅっ、くちゅ……お、ねが…い……いかせ……」
三宮の巧みな責めと濃厚なキスにすすり泣きをあげて、いかせてほしいと郁は懇願する。先程からこの状態がずっと続いていた。
郁は今すぐ縛めを解いてこの我慢させられ続けている状況から解放してほしかった。けれども三宮の責める手の勢いは衰えず、いかせるつもりで郁の起立を扱きあげている。射精は根元の包帯によって許されていないので、郁の起立は切なげに震えては大量の蜜を零し続けている。ぐちゅぐちゅといやらしい水音が室内に響いていた。
「うわっ! さむ〜」
「うおっ、マジでさみぃ。……すっかり冬だなー」
「本当にね」
建物を出てすぐに吹きつける冷たい風に春野郁は軽く身を震わせる。後に続いて出てきた川島健人も、外の寒さに緩んでいたマフラーを巻き直しながら郁の言葉に頷く。
つい二〜三日前までは十二月なのに暖かいなーなどと二人して言いあっていたのに、あっという間に寒さはやってきて、コートとマフラーが無いと出歩けないほどである。
「健人、風邪ひくなよ」
「いやいや、郁がな? 俺じゃなくて郁こそ気をつけろよ」
「分かっているよ。ありがとう健人」
「今日はあの人の所は……行くのか?」
健人の表情は少し真面目なものになり、心配そうに郁を伺う。
「んーんー。行かない。そんなしょっちゅう行かないよ」
健人の真剣な表情をよそに、郁は健人に明るく返すと安心させるように小さく微笑む。
春野郁は幼いころに父親を亡くし、中学卒業まで母子二人で暮らしていた。しかし、その母親は亡くなり、今は母の再婚相手の西条崇也が一応郁の家族だ。その義父も今は入院していて、郁は月に二〜三回ほど見舞いに行っている。
どうやら健人は郁の義父である西条崇也のことは好きではないらしく、郁が見舞いに行くことに賛成ではない。そのため出たセリフだった。
「それもそうだよなー。……なぁ、本当にいつでもウチに来ていいからな」
親も歓迎しているし、妹もむしろ連れてきてとか言っているくらいだから……と付けたし、いつでも歓迎だぞといつものように郁に伝える。
「……ありがと」
健人や健人の家族の優しさにじんわりと心が暖かくなった。
「お、おぅ。じゃあまた休み明けにな!」
「うん」
二人は駅の改札口で別れを告げてそれぞれの帰路へとついた。
彼らは現在同じ大学に通う大学一年生同士で、高校の頃からの親友だ。高校一年生の頃にクラスが同じになり、お互いに意気投合してからはよく二人でつるんでいた。そしてそれは今も変わらず続いている。
「ふぅ。それにしても急に寒くなったよなぁ……」
郁の頭には、寒さのことも浮かんでいたが、義父の病院に見舞いに行くべきか行かないかということで大半が占められていた。
「……いきたく、ないなぁ……」
気持ちとしては行きたくない。けれど行かないと行かないで彼の秘書や彼から直接連絡がくるのも困る。
郁はそんなことを思い、ぼんやりとしながら自宅へ続く道をゆったりとしたペースで歩いていた。自分の住む家のある住宅街へと入るために十字路に差し掛かった時だった。
住宅街で、普段あまり交通量が無いからと油断して何時も通りに曲がったことがよくなかった。
急にエンジン音が聞えてきたかと思うと、郁の身体は後方へと吹き飛ばされていた。
「えっ…………」
―――あぁ、ぼく……轢かれた、ん……だ……―――
郁は自分が轢かれたとはすぐに判断できず、気が付いた時にはもう意識を失っていた。
「……ん、ぅ……うぅ、……こ、こは……?」
郁が目を覚ますと部屋の明るさに眩しく感じて瞳を少しだけ開いて見た。すると、ぼんやりと白に近いクリーム色の天上が目に入った。
「目が覚めましたか?」
右隣上の方から聞えた声に、郁は誰かがいるとは思っていなかったので少し驚きながら、顔を声が聞えた方に向ける。
「あ、なた……は……?」
適度な長さに切られた黒い髪に、鋭い切れ長の瞳を持つ男性がそこに居た。瞳の鋭い印象は眼鏡をかけることで幾分柔らかいものになっていて、様子を窺うように郁のことを見ている。
「私は、医者です。自分が車に轢かれたことを覚えていますか?」
郁には彼の顔の部分しか見えていなかったが、言われて見直してみれば確かに白衣を羽織っている。ネームプレートには三宮と書かれている。
「くる、ま……? ……そういえば……」
三宮の言葉に、家へ帰る途中に車に体当たりされたことを思いだし軽くうなずいてみせた。
「まだ名乗っていませんでしたね。私は三宮玲二、ここ伯泉総合病院の外科医です。君は車に轢かれてこの病院に運ばれました」
自己紹介と共に郁が現在ベッドに寝かされている経緯を簡単に話してくれた。
「伯、泉……病院…………よりによって……」
三宮の説明に郁は義父と同じ病院のベッドに寝かされていることを知り、小さくため息と一緒に呟きを零す。
「幸い轢かれたといっても、全身の打撲と左足首のヒビと、入院は必要ですが、重症ではないのでこの様子なら二週間程度で退院できるでしょう」
レントゲンなどの検査でも今のところ特に異常はないから安静にしていれば、その程度で退院できるでしょうとベッドで横になっている郁に告げる。合わせて自分が担当になったとも言った。
「そう、ですか……。あの、入院しないとだめですか?ヒビなら気をつけていれば」
他の病院ならまだしも、義父のいるこの病院になるべく居たくない郁は三宮の話を聞いて、暗に帰宅したいと匂わせる。
「だめです。ヒビを甘く見てはいけませんよ。それに、打撲だからといって油断してあとから異変が起こる場合もあります」
軽傷だからといって甘くみると大変なことになるという三宮の軽い脅しとともに、郁の望みはさらりと却下される。
「安静にしていた方が直ぐに治ります。それに、大学はお休みでしょう?」
さらに畳みかけるように言いながら、三宮は診察の準備を始める。
「……え、あ……はい……まぁ」
郁は不承不承ながらも三宮医師の言葉にうなずいた。
「なら問題はありませんね。出歩くときはこの松葉杖を使ってください。ここに置いておきます」
この話は終わりだと言わんばかりに、郁が出歩けるようにと持ってきた松葉杖を個室の椅子に立てかける。
「さて、では診察しますので上を脱いでください」
「え……あぁ、はい」
郁は言われた通りに、着せられていた病院支給の入院着の紐を解いて前を開いた。
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