大学も無事に決まり、みんなで帽子を投げ上げた卒業式はつい先日盛況に行われた。
 ルツィアーノは秋から第一志望だった都市の大学に通うこととなった。アドルフとは離れて寮で暮らすこともすでに決まっている。入学の一週間前には入寮が許されるため、それまでの二ヶ月弱は最後の家族水入らずの時間だ。
 とはいってもアドルフは不定期に出張に行ってしまい、今日も不在だった。家を出るのはタイミングが合えば事前に教えてくれるが、帰ってくるときは殆どが突然で、気がついたら家にいることが多い。
 どんな依頼を受けているのか詳しくは教えてもらったことはないが、早く片付ければ早く帰ってこられるらしい。
 昔ルツィアーノが、ドラゴンとでも戦っているのかと聞けば、そんなところだとアドルフにはぐらかされた。それからはまともな答えが返ってくることはないのだろうと学び、聞くことすらしていない。
 長期休みに入り、通学していた時よりも遅く起きるようになったが、毎日やることがそこそこあった。自分が食べるご飯の調理はもちろん掃除に洗濯は毎日場所を変えて少しずつ行った。それ以外にも有り余る時間を使ってアドルフが貯蔵している膨大な数の本を読み漁っていた。主には大学で専攻する経営学に関するものだったが、毎日同じような内容では飽きてしまう。その為、歴史や文学、それ以外にも目についた本を適当に手に取って読んでいた。
 もちろん家の中で過ごすだけでなくたまには高校の友人と遊ぶ予定もあった。しかし多くの友人が海外や国内旅行で地元から離れていってしまっているため、本当にたまのことだった。
 リビングにある二人掛けのソファに脚をはみ出しながら寝転がる。腹の上にはやり手の経営者が書いた半自伝的な本、つけっぱなしのテレビは朗らかなローカルニュースを語っている。
「俺もどこか旅行行きたかったなぁ」
 旅行にも行かないとなると、一ヶ月以上ある休みをどう過ごせというのだ。まだ一週間と少ししかたっていない休日だというのに、ルツィアーノはすでに飽き始めていた。
 少し前までは平日は学業と家事をこなしていればあっという間に時間が過ぎていた。休日には普段できない大掛かりな家事をしたりテレビや本を読んでいれば、いつの間にか月曜日になっていた。しかし今は家事はほとんどやり尽くしてしまい、細々とした毎日のルーティンしか残っていない。テレビもニュース以外はどれも似たような番組ばかりで飽き飽きしていた。
 アドルフがいれば他愛もない会話ができたし、同じ内容のテレビ番組を見ていても楽しく感じられていただろう。
「あー、俺寂しいのか……」
 一人きりで寂しいからこんなにも何もかもつまらなく思ってしまうのか。そう考えると大学生活が心配になった。もちろん学校にも寮にもルツィアーノ以外の人間はいるだろう。そして中には友人と呼べる存在も。ルツィアーノの性格からして一人きりで四年間を過ごすとは考えられない。多くはないにしろ会話をするには困らない相手が出来ることだろう。
 ただもちろんその中にアドルフは居ない。長期休みに帰ってくるのがやっとだろう。この町から大学のある市内までは二時間以上かかる。時間だけでなくお金もかかるのだ。この家がそう気楽に帰って来れる場所ではなくなる。
 考えれば考えるほど余計にアドルフと同じ時間を過ごしたくなった。アドルフに仕事がある時以外は毎日顔を合わせて、食事だって共にしていた。時間は有限で、想像しているよりも遥かに短い。
当たり前だったことがそうでなくなる。それがこんなにも人を心細くするとは思ってもみなかった。
 勉強して社会貢献をしてアドルフに恩返しをするんじゃなかったのか? 目先の不安よりもやるべきことがあるのではないか? 自問自答をしてルツィアーノは自身を鼓舞した。
「時間があると余計なことを考えていけないな。これもアドルフの力が弱まってるせいかな?」
 一週間近く前、触手越しに力をたっぷり貰った。やっていることは前と変わらないが、ルツィアーノが告白して以来、頬ではなく、唇にキスをしてくれるようになった。それだけで極めそうになったことが何度となくあったが、絶対にアドルフには悟られたくなかった。恥ずかしすぎて死にたくなるからだ。
 濃厚な行為を思い出して、若いルツィアーノの半身は反応してきてしまう。
 この体質のせいか、高校を卒業したというのに、自慰というものを殆どしたことがなかった。週に一度は強制的に根こそぎ射精させられてきた。取り憑いた悪魔を祓うためとはいえ、精通してからはアドルフの世話になりっぱなしだ。
 そんな中で自ら致そうとは思えなかった。日々の家事もあり、宿題や予習復習をしていると寝る時間しか残っていない。そうなると、どうやって自慰をするのかが分からないまま育ってしまう。
 今まさに、壁にぶち当たっているのがその方法だ。ルツィアーノは女性の身体を思い浮かべようにも教科書に描かれていた生物学的なものしか浮かばなかった。家族がアドルフしかおらず、友人もほとんどが同性だった。そこそこ仲の良かった女子のクラスメイトにも異性としては見ておらず、ただの友人でしかない。
 脳内でこないだの出来事が回想される。ルツィアーノよりも小さなアドルフの手が頬に触れ、肩、胸、腹とどんどん下へと下がっていく。細く粘液のついた触手がルツィアーノの尻を撫で奥の蕾を探っている。見つけると、ゆっくり押し進んで行った。異物感にルツィアーノは眉をひそめたが、アドルフの手がルツィアーノ自身に触れると意識をそちらへ逸らされる。
 アドルフにそれが硬くなっていることを指摘されると、ルツィアーノは誰のせいだと文句を言った。
 年齢はどうあれ、こんなにも小さなアドルフに恋をしているルツィアーノは異常者なのではと己が怖くなる。家族にこんなことをされて喜んでいるのだ。普通でないことは明白だった。
 ルツィアーノは記憶を辿るように前と、そして後ろにも指を伸ばした。


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4年ごしにえっちさせられました。