こんな良物件、正直ないと思う。
ギリギリ高校を卒業した翔太は、ありがたいことに一社内定を貰っていた。
翔太はFランクの高校の、これまた底辺な成績。算数は大好きだったが、三桁になるともうどうでもよくなった。それでも保健体育だけは真面目に出ていた。なので、それだけは学年でも真ん中には届く点数を取れた。だが好きでも復習が嫌いで記憶力もたいしてなかった。
馬鹿であることを自覚していた翔太だったが、流石にどこか定職につかねばと三年の一月に漸く焦り出した。時期も遅かった上に学力も体力も忍耐力もなかった。周りは将来が決まり、心置き無く遊んでいる。そんな中、先が見えない不安感がじわじわと翔太の中で生まれた。
両親は諦めているのか何も言ってこない。そもそもこんな学校に入って期待も何もなかった。
求人広告探しに街をフラフラ歩いている時だった。あるポスターが翔太の目に留まる。
正社員募集。十八歳以上、上限なし。学歴・経歴不問。ただし男性に限る。健康な方、募集しています。楽しい職場で気持ちよく働きませんか。簡単なお仕事です。勤務時間はシフト制。残業は一切ありません。月給五十万。社宅あり。マッサージやジム等無料でご利用いただけます。電話番号XX-XXXX-XXXX あなたの健康第一ハルタ社。
なんだこれと翔太は思わず目を疑った。だが、数瞬してすぐにスマートフォンを取り出し電話を掛ける。何度かコール音が鳴ると、相手がでた。
「もしもし、募集のポスターをみたんですけど――」
すぐに面接が決まり、業務内容を納得した上で内定をもらった。四月から働くことになったが、それももう二年も前の話である。
「はい、じゃあ今日もよろしくおねがいします」
現場監督の声で一斉に翔太たちは立ち位置についた。
下半身を剥き出しにした男たちが十人ほど列をなし、同時に器具を装着する。翔太は今日後ろを使う予定であった為、ローションをもう一つの器具に塗りたぐり体内に入れた。入れはじめは少し苦しいが、それさえ越えればあとは快楽しかない。
ここは嗜好品を生み出す小さな工場。従業員は三十といないが、純利益は七百億にものぼるという。その嗜好品は量産できないため、極めて価値が高い。またもうひとつの理由に、一日の生産量が数リットルと非常に少ないにもかかわらず、鮮度が求められるというも加えられる。冷凍されたものもあるが、高度な技術により解凍してもその鮮度は殆ど変わらない。
「セットできましたね。スイッチ入れますよ」
その声に翔太は少し身構えた。前後に装着した機械がビクッと震え、動き始める。
「はぁ……んっ……」
切ない声が工場内のあちこちで発せられた。
嗜好品――それは男たちの精子だ。ここでは男たちの精を絞り出す。それを健康に良いと一風変わった金持ちたちが好んで飲むのだ。完全な会員制で、半期ごとの会費だけでも十分裕福な生活が出来る程だ。加えて商品も高額とあれば、中途半端な富裕層では維持も購入もできない。
それでもそのプライドや趣向から、会員数は一定数伸びてきている。購入理由は主に後者であるため、退会者がほとんどでない。また、そのほかにも排泄物であれば従業員の契約次第では購入可能だ。
商品はおまかせ・ブレンド・指名の三つから選べ、ブレンド料・指名料と別途追加料金が求められる。常連になると好みが別れてくるため、指名を入れる割合が高い。
翔太は一度の量が多く味も濃い為、入社二年で上位の指名率を誇っていた。さらに、回数もこなせるのでまさに天職であった。
今日は貯蔵用のひと出しが終わると工場を閉める。明日、重要な客だけが集まるイベントかあるのだ。
半期に行われるイベントで、常連客に搾り体験をしてもらおうというものだ。体験も何もやることは分かりきっている。その上、もう何期も同じ客たちが呼ばれ開催されるので、新鮮味はない。しかし、呼ばれるということは非常に名誉なことであり、権力の象徴ともいえよう。
「あ、あっ……んっあっ……! あぁんっ、やっ、あ……あっあっ……!」
後ろでバイブがぐねぐねと動く。中を掻き乱される快感に翔太はうっとりした。
前の機械はただ精液を吸い取るだけで、快楽にはあまり直結しない。吸い取ると言っても、血が通わなくなるの効率が悪い。その為、規則正しい間隔で空気が抜けるようになっていた。
突かれるタイミングで翔太も腰を下ろす。中に入れる器具は椅子から出ており、座れるようになっている。突き出た男根を模したそれが下の口に、涎塗れになりながら出入りしていた。
「ん、んっんっ! も、あっ……でるっ」
ドピュっと吐き出され、透明な装置が白く濁る。だがそれは直ぐに吸い上げられ、ホース伝いにタンクへ向かう。その後どうなっているのか、翔太は知らなかった。イった瞬間が気持ちよすぎて興味をもつ暇が無いのだ。
ビクビクと痙攣し、前から出切っていない蜜をさらにホースに吸わせ、無意識に後ろを締め付ける。そうするとまたゆっくりと翔太の分身は硬度を増す。
広げた股の間に両手を置き、椅子の一辺を握る。ふわふわする頭で倒れないように、より動きやすくするために、強く持ち直した。
「はぁっはぁっはぁっ……う、しっ」
乱れた息はそのままに、また腰を動かし快楽を追い求める。どんなに気持ちが良くとも今日は後二回しかイってはいけない。
仕事が仕事なだけに、例え休日でも回数は制限される。翔太は量も回数もこなせるため、制限は他の者より緩いが、それでも休日は二回までと決められていた。また、週に一度は必ず息子を休まさなければならない規則がある。
二日働き一日休み、また二日働いて一日休む。その後三日働き二日休むというサイクルでシフトが組まれていた。なので制限されようが、こう回数が少ない日以外は自分でしようとは思えない。
普段は勤務時間が終わる頃には、殆ど空になるまで出しきってしまう。休憩時間は多く取られるが、その際も精子の製造を促すことをできる限り行わなければならない。また週に二度の健康診断も怠らない。常に健康で、正常であることを求められる。それが新鮮な製品を届ける会社の義務だからだ。
「あっう、……ひぃっ」
上り詰めるようにイイ所ばかりを責め立てる。頭も身体も快感だ一色になってきた。もう一息、もう一息。それさえ掴めれば、あとはどうだっていい。そう思いながら一心に腰を打ち付けた。
ノルマをこなすと、翔太は工場に備え付けられているシャワールームで身体を清めた。仕事仲間たちも揃ってボックスに入る。
「相変わらず翔太はイイもん持ってるよな」
「は?」
となりのボックスを使っている昴がこちらを覗いてくる。確かに翔太のそれは大きく平均よりも数センチ長かったが、何度も言われることではないと感じていた。昴は翔太よりも一月早く入社し、これまでずっと見られてきているのだ。見る度に言われては、耳にタコができてもおかしくない。
「チンコだけじゃなくて筋肉も綺麗についてるし、オレにも分けてほしーわ」
「お前だって鍛えてるだろ? お前も結構ついてんじゃん。おれと大して変わんないよ」
「んな事ねえって。オレよりいいとこづくし、ずりーよ」
何度も飽き飽きしていたので、翔太は言葉を返さずシャワーを止めた。落ちきった泡がお湯と一緒に排水口に吸われていく。ドアとドアのフックに掛けていたタオルで身体を拭いた。割れた腹筋にキラキラと残った水滴が反射する。
翔太はここに入り、大分身体を鍛えた。回数をこなすには体力がいる。その為に会社のジムに通っていたが、今ではすっかり趣味になっていた。早朝のジムは空いており、健康的な生活を営むきっかけとなった。
帰り支度をしていると昴がまたうるさく鳴いてくる。
「明日、また下山さんだろ? あの人お前を見る目がヤバイからほんと気を付けろよ?」
「あーまぁ、別に襲われるわけじゃないし。大丈夫大丈夫」
常連客で翔太を贔屓している下山に対し、昴は非常に警戒を見せていた。翔太からすればただのいい客なので、今ひとつ昴が心配する理由を理解できないでいた。
「その能天気さ、そのうち痛い目見るぞ! オレは知らないからな!」
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溺愛だけどちょっと変態な攻めとそれをそうなんだと素直に受け止めちゃう受けです。
表紙はシック?ですが中身はとっても軽いです。ただの表紙詐欺。