アステルの卒業式を終え数週間だった初夏のある日、鏡台の前でアステルは侍女達に薄く化粧を施されていた。今日は二人が待ちに待った結婚式だ。先週はこの日のために共に忙しくしており、一度だけ夕食をとってすぐの解散と物足りない時を過ごした。当然、アステルはイリオスの膝の上に座り雛のように口を開けて食事を待ち、濃厚なキスも交わしたが。
 しかし、その時言われたイリオスの言葉がずっとアステルの心を掻き乱していた。


「式が終わったら軽い促進剤を飲むことになっている。だからアステルも抑制剤は飲まずに来てくれるか?」
「それって……番になれるってことですか?」
「正式に婚姻を果たした者が番になりたがっているんだ。当然許されるだろう」
 パッとアステルの表情が輝き、ぎゅっとイリオスを抱きしめた。
 五歳で出会い、もう十三年ほど番になれずにいた。それが遂に果たされるのだ。嬉しくないはずがなかった。そして近い未来行う愛咬の場面を考えるだけでアステルの体は熱くなった。
「早く来週になればいいのに……。でも、今日は時間がないからいっぱいかわいがって貰えないんですよね……?」
「残念だが、この後また会議があるんだ。先週もあまりアステルがかわいく乱れる姿を見られなかったからな……。私たちはとことん我慢させられているようだ」
 隙間なくくっつきお互いの切なさを分かち合う。若い二人にとって我慢我慢の数年間だった。
「……式の後は数日公務がお休みですよね? たくさん僕のことかわいがってくださいね? 僕、体力だけは自信があるんです」
「ハハッ、そうだな。アステルひとりであんなに淫らに踊っていたのにケロッとしていたからな」
「だって……僕がしようとしてるのにイリオスさまが僕の弱いところいじるんですもん……。僕だって、イリオスさまが気持ちよさそうにしてる所、見たいんですよ?」
 アステルよりは少し小さいけれど、立派なそれを愛でようと一生懸命になるが、その度に反撃を食らってしまう。泣かせられっぱなしでアステルがイリオスに勝てた試しはなかった。
「アステルが気持ちよさそうにしていることが一番嬉しく感じるんだ。……しかし、こんな我慢、私が王族でなければせずに済んだんだろうな」
「貴族の規範たれ……仕方がないですよ。先頭に立つものが規律を守らなければ誰が守れと諭せるんです」
 イリオスが言うように、ただの学院生たちは番契約を結ばずとも、恋人同士の性交をしているという話は耳にしてきた。平民も通っていることもあり、貴族だけの環境より性に対して開放的なのだろう。
 しかし、貴族法では婚前交渉は罰則は無いものの良しとしていない。昨今自由恋愛も広がってきており、見直しが必要だろうと声が上がっきている。
 当然、イリオスがアステルとそういった行いをするにあたり貴族法を隅から隅まで見直した。今までの行為がルールの範囲内であることは確認済みだ。
「アステルが理解してくれて感謝している。あと少しだけこのもどかしい関係を楽しもう」
「はい! ちゅーはいっぱいできますからね」
 二人は軽いキスを交わしクスクス笑いあった。

 準備が整いアステルは立ち上がった。
 正式な騎士では無いが、在学中に入隊試験には合格はしており、また騎士の家門ということを考慮して、アステルは濃紺をベースに金の刺繍や肩章で飾られた軍服を模した礼服を纏っていた。腰に帯剣しているのは十八歳の誕生日に父から貰った華美でありつつ実用的な剣だ。騎士として番を守るという誓いも込められている。
 静かな廊下にブーツと剣の揺れる音が響く。けれど、それ以上にアステルの心臓の音が自身にはよく聞こえていた。
 ようやくという気持ちと嬉しさや未来への期待と色々な感情が入り交じる。出会ってからの十三年は長いようであっという間だった。不安もあったがイリオスを好きだという気持ちは変わらないどころか増していった。
 すき、すき、すき。早くお互いを唯一の存在にしたい。神に誓わずとも既にイリオスに身も心もすべてを捧げている。式やパーティーなど取り止めて、早くイリオスの甘い香りがする巣に篭もりたかった。
 けれども、扉の前に立つイリオスの姿を見て式をしてよかったと思えた。
 深紅に金の刺繍が施されているマントは王族だけが許された組み合わせだ。白を基調とした礼服はアステルの瞳の色に似た青と金の刺繍が華やかに描かれている。そのすべてが美しく輝いて見えた。一度試着した姿を見ていなければその神々しさにくらっと倒れていただろう。
「ああ、イリオスさま……本当に素敵です……」
「アステルもよく似合っているよ。美しさに磨きがかかっているな」
 にこやかに褒めてくれるイリオスに抱きついてキスをしたくてたまらなかった。アステルの気持ちを知ってか知らずか、イリオスが少し背伸びをしてアステルの額に口付ける。キュンとアステルの心臓が跳ねた。
「早く終わらせてしまおう」
「はい……」
 イリオスの瞳から熱情を感じ取りアステルは甘い吐息をついた。式の間、抑制剤を飲まずに来たことが不安でならなかった。
 二人の挙式は少々口付けの時間が長かったこと以外つつがなく終えた。教会から王城までの大通りでは天井のない馬車でパレードを行い、多くの国民から祝いの言葉を貰った。
 王国の主要都市では国庫が解放され、食事が振る舞われることになっている。おかげでその日は、王都だけでなく各所で賑わいを見せたそうだ。
 アステルとイリオスは王城に着きパーティーに参加した。国中の貴族が集まり、中には大店の商人や議員など著名な平民たちも呼ばれていた。
 代わる代わる挨拶と祝辞を受け、ほとんど食事をとる暇なく過ごした。イリオスのリードでダンスをし、会場が落ち着いたところで一度お開きとなった。会場自体は朝まで開かれているため、このタイミングで帰る者はまばらだった。しかし、本日の主役であるアステルとイリオスは早々に退席した。

 湯浴みのため、一度イリオスと別れての行動となった。時間短縮とばかりに、複数人によってアステルの体が磨き上げられる。できる限り香料の入っていない石鹸を使い、番にフェロモン以外の余計な匂いは嗅がせない。
 さっぱりとして火照った体を拭き、首筋が隠れる長さの黒髪をタオルで乾かせる。完全には乾ききらなかったものの、水が滴ってくることはなくなった。
 素肌のままナイトガウンを着て腰の辺りで紐を結ぶ。ラフなルームシューズを履いて、アステルはイリオスの待つ二人の寝室へと向かった。と言ってもアステルに割り当てられた部屋はイリオスの隣で、廊下に出ずとも中で繋がっておりすぐに着いてしまう。
 挙式の時以上に胸が高鳴っていた。
「イリオスさま? 入りますよ」
 ドアをノックし返事よりも前にひょこりと顔を出す。イリオスも既に風呂から出ておりナイトガウン姿で椅子に座りワインを飲んでいた。
「アステル、こっちへおいで。軽く食べないか? あまり食べる時間が無くてお腹が空いているだろう」
「あ……そうですね。言われて思い出しちゃったみたいです。僕にも少しください」
 テーブルには軽食とワインと水差しが置かれていた。水はまだワインを飲みなれていないアステルのために用意されたのだろう。
 アステルは指定席であるイリオスの膝の上に横向きに座り、片腕をイリオスの肩に回しぴとりとくっついた。イリオスがコップに水を注ぎ、アステルに飲ませる。そして今度はサンドイッチを取り、一口含んでからアステルに差し出した。二人で一つのものを交互に食べ合う。
「あっという間でしたね」
「もっと長く感じるかと思っていたが、何かと忙しなかったな」
「でも、お揃いの指輪もダンスもできて嬉しかったです。準備してる時はこんなことしなくていいから、早くイリオスさまと番になりたいって思ってたのに……へへっ」
 二人の左手の薬指には金の指輪がはめられている。剣を握るアステルの邪魔にならないようにとできるだけシンプルな物を作ってくれた。
 アステルは自分が着飾ることにはあまり興味がなかったが、イリオスが素敵な衣装や宝飾品を身につけている姿を見るのが好きだった。指輪はイリオスの思いやりと愛が詰まっていて嬉しい気持ちが大半ではあったが、少しだけ物足りなさを感じていた。しかし、本人がそもそも輝いているため、いくら豪華な宝石を付けようとイリオス本人には負けてしまうことに変わりは無い。
「アステル……私のかわいいお星さま」
 名前を呼ばれた瞬間ぶわっとイリオスから甘く濃い匂いが発せられた。初めて感じる強いフェロモンにアステルはくらくらした。ただただイリオスが欲しくなる。
「イリオスさま……」
「どうやら薬が効いてきたみたいだ。擬似的とはいえきちんとヒートになるのは初めてなんだ。酷くしないようにする……いいか?」
「もちろんです。酷くしたって構いません。たくさんたくさん愛してください……」
 イリオスがアステルの膝の後ろに手を回しそのまま立ち上がった。アステルも肩に回していた手に反対の手を乗せてピッタリとイリオスに寄りかかる。
 オメガだが、イリオスもアステル程では無いものの体を鍛えていた。ふらつくことなくベッドまでアステルを運ぶ。下ろされ離れていこうとするイリオスにお礼のキスをした。するとそれが呼び水となったのかイリオスがアステルに覆い被さり、深い口付けを開始した。
 熱く甘いイリオスの舌はフェロモンを纏ってアステルの口内を蹂躙する。普段であれば応戦するところだが、そのキスだけでビクビクと体が跳ねて軽くイってしまう。アステルの隠れ上手な乳頭も触れいないにもかかわらず下半身同様硬く勃ちだした。
「ぁんんっ、はっ、んっ」
 イリオスによって手早くアステルのナイトガウンが肌蹴させられる。アステルも頑張ってイリオスの前を留めている紐に手を伸ばすが、引っ張ってわずかに緩めさせることしかできなかった。
 露わになったアステルの乳頭をイリオスがきゅっと摘む。するとドピュッと放出しアステルは自身の腹を汚した。
「んんっ」
「おや? いつの間に顔を出したんだ? 私が出したかったのだが……。ああ、もう下もぐっしょりしているな。まだキスだけだぞ?」
 イリオスの咎めるような言葉にまたアステルは硬度を増してしまう。
「だって、イリオスさまの匂いだけで出ちゃいそうだったんですもん……。イリオスさまだって硬くなってますよ……?」
「……そのようだ。ヒートはすごいな。体が酷く熱くなる。それでもアステルの中に入りたくなるのはオメガとしておかしいだろうか?」
 雄の目をしたイリオスに触ってもいないアステルの後孔が物欲しげにひくつく。アステルはイリオスの顔に手を伸ばし頬を撫でた。
「それなら、アルファなのにイリオスさまに中をぐちゃぐちゃにして欲しいって思う僕だって変かもですね……。でも、アルファとかオメガとか関係なく僕たちは夫夫だから、好きに愛し合っていいと思うんですよ。我慢はもう終わり、です。早く僕の中にください……」
「私のお星さまが望むならいくらでもこの身を捧げよう」
 軽いキスの後、イリオスはサイドチェストに用意されていた香油を取り出し、少し掌で温めてから、アステルの蕾に塗りつけた。早く早くと収縮するそこにイリオスの指が入る。難なく一本は入るようになったが、口を広げるように縁を何周かし、程なくして二本目を追加した。
「あんっ、あっ、奥に……くださいっ」
「少し手前のここも好きだろう?」
 的確に弱点を捏ねられたアステルは腰が跳ね上がった。きゅうきゅうとイリオスの指を締め付け逃すまいとする。
「ああっ」
 またアステルの中で灼熱が迫り上り出ようとする。しかし、根元をイリオスの指が締め付けそれを許さない。
「まだ入れてすらいないんだ。セーブしないともたないぞ」
「いじわるっ、だめぇっ……んぅっ」
「奥も触ってあげるから」
 許せとばかりに奥まで指を入れてもらっても、イかせてくれないのならただ辛いだけだった。バラバラと中で動き気付けば三本目が入っていた。
「イき、たいっ! あっ、あ、んっ、イリオス、さまぁっ」
「分かった、分かった。挿れるぞ? 痛かったらちゃんと言うんだ」
「はやくっ、はやくっ! ィきたいっ」
 アステルはもうイくことしか考えられなくなるほど我慢させられていた。
 アステルの後孔にイリオスの切っ先が当てられ、ぐっと押し広げられていく。痛みもあったが、それよりも奥へと進む最中、前立腺を擦られたことで全身に電気が走った。
「あぁーっ」
 目の前がチカチカした。しかし、一度では終わらない。達したアステルの体は一層イリオスを締め付け感じてしまう。加えてこのイリオスから発せらる甘い香りだ。すぐにまた反り返る。
「っん、あ、はぁっ……イリオスしゃまっ、んっ、イリオスしゃまっ」
 怖いくらいイきやすくなっている。飛んで行ってしまいそうで、怖くてアステルはイリオスに手を伸ばした。
「ああ、奥まで入ったぞ、アステル。かわいいアステル……」
 イリオスがぎゅっとその手を握った。
 イリオスとて初めてだ。入口は強く、しかし奥は優しく締め付けてくるアステルに本能のまま腰を打ち付けたくなる。しかし、快感で震えて泣いている番を前にそのような真似できなかった。
「ゆっくりしよう。アステルが落ち着つくまでこのままだ」
 優しいキスの後、手が解かれ一瞬不安になるも、イリオスはそのままアステルを抱きしめようとする。アステルも背中を開けるように少し起き上がり、イリオスに抱きついた。
 しっとりとしたイリオスの肌は温かく、どちらともなく早鐘が鳴っている。下半身はお互い滴るほど勃っているのに、アステルの心は少しずつ落ち着きを取り戻していった。
「アステルの中はすごく熱いな。引きちぎられてしまいそうだ」
「痛い、ですか?」
「いいや、気持ちいい。ずっとここに居たいくらいだ」
 中のイリオスがピクピク動いているような感覚がした。
 イリオスがアステルの中にいる。ずっと望んでいたことが叶ったのだ。アステルは快感では無い涙が出そうになった。
「んっ……ぼくも、ずっとこのまま繋がっていたいです。大好きです、イリオスさま」
「私も愛しているよ、アステル。私のかわいいお星さま」
 啄むキスの後、ゆっくりと舌を絡め合う。同じ様にゆっくりとイリオスが出ていこうとする。嫌だとアステルが締め付けるとまた戻ってきてくれた。それを何度となく繰り返していると、キスをする余裕が無くなってしまった。
「あっ、あっ……おく、ごつんってするのっ……きもちぃっ」
 そう言うとイリオスの雄が少し大きくなった気がした。イリオスの穿つ速度が少し早くなる。
「あっ、あっ、……んっ、ぁっ」
「っ……すまない、少し乱暴になる……」
「う……? っん!」
 宣言通りイリオスは、ガツガツと貪るような腰使いに変わり、アステルが振動で揺れた。ずっと気持ちが良くて呼吸が浅くなる。
「あっ、あっ、……またイっちゃ、ンッ、あ、出ちゃっ……んぅっ!」
 ほぼ同時に放たれた。アステルは胸まで汚しながらイリオスを受け止めた。どく、どくと中に出されているのが分かる。
「あはっ、今度は……一緒、ですね……」
 イリオスがアステルで気持ち良くなってくれたのが嬉しかった。へらへらと笑っていると中のイリオスがまた大きくなってくる。
「んっ……これも、お揃いだぁ。ふふっ、嬉しい……」
「……今のはアステルがかわいいからだ」
「ふふふっ、ぼくが、かわいいから、勃っちゃったんですか?」
 嬉しくてきゅんきゅん後孔が収縮してしまう。それがよりイリオスを大きくさせた。

 その後体勢を変えながら二回ほどイリオスがアステルの中に精を注ぎ、ようやくそれが抜かれた。背中の重みが無くなり、少し寂しくなる。
 体を弛緩させるとこぷっと中から白濁した体液が零れる。アステルは慌ててきゅっと尻に力を入れた。
「掻き出さないと、腹を壊すぞ?」
「まだいやです……もうしばらくお腹に入れておかせてください」
「また後でたくさん注いであげるから」
 アステルは首を振り説得には応じない構えをみせる。仕方がないとイリオスは後ろをむいて金の髪を掻き分けた。
「アステル、噛んで番にしてくれないか?」
「……っはい!」
 綺麗なイリオスの項は交合のせいか少し上気してみえる。美味しそうだとアステルが感じるのはアルファの本能だろう。
「いきますよ?」
「ああ、思い切りやるんだ」
 アステルは口を大きく開き真っ白なイリオスの項に噛み付いた。否、僅かに歯を立てたが正しかった。傷つけてはいけないという騎士の本能がアルファのそれを上回ってしまったのだ。
「……それでは番になれないだろう?」
「だって……強く噛んだら、痛いですよ? 僕、イリオスさまを傷つけるのだけは嫌なんですもん……」
「……分かった。では見本を見せよう。アステル、後ろを向いて」
「噛んでくれるんですかっ?」
 アステルは嬉しくなってすぐに後ろを向いた。少し長い髪を掻き分け、噛みやすいように下を向く。肩にイリオスの手が乗ると首筋に息がかかった。ぞくりと震え、散々出したはずの下半身がピクりと反応する。アステルは自分の吐く息が熱くなったのを感じた。
 ちゅっとキスが落とされる。
「んぁっ」
 肩に置かれた手に力が入ったと感じると首筋に痛みが走った。
「ぁあっ!」
 痛みと共に快感がアステルの全身に広がる。射精の一歩手前まで上り詰める。それも労わるように傷跡を舐められたことでビクンビクンと震えて力無く吐き出された。
「……アステル、君は私を煽る天才だな」
「だってぇ……イリオスさまがすること、何でも気持ちよくなってしまうんです……」
「それはいい事を聞いた」
 噛まれたところを指の腹で撫でられアステルはまたビクンと震えた。
「イリオスさま……僕また後ろが欲しくなっちゃいました……」
「いくらでも付き合うさ。しかし、その前に私の首を噛んでくれ。番になってくれるんだろう?」
「もちろんです! 今度は痛くしちゃいますよ……」
「構わない。血が出るほどやってくれ」
 髪を掻き分けられた項にイリオスにされたと同じようにキスをした。少し吸い付いてイリオスの味を確認する。噛んでとフェロモンからも訴えてくるようだ。
 アステルは腹を括りその真っ白な項を思い切り噛んだ。
「くっ……ああ、なんだか身体中の血液が沸騰しているようだ……」
「大丈夫ですか!?」
「心配ない。体がアステルのものになろうと変化しているだけだろう」
 イリオスは噛まれた首筋に触れた。熱を持ったそこには確かに噛み跡がくっきり、痛々しい程に残っている。アステルにも同じような跡が付いたが、近い未来消えてしまうだろう。
「私もアステルのように一生の跡を残せたら良かったな……」
「……なら、消えそうになったらまた噛んでください。消える前に噛まなきゃ、ダメですよ?」
「それは……毎週のように噛まないと駄目かもしれないな。良いのか?」
「毎日だって噛んで欲しいくらいです。……ねぇ、イリオスさま。また噛みたくなってきませんか?」
 ただ噛むだけでは済まないことは明白だ。期待の籠った瞳でイリオスを見つめる。
 先程から後ろが疼いて仕方がなかった。己のものになった番が欲しくてたまらないのだ。
「そうだったな。……ほら、噛みやすいように後ろを向いて」
 アステルは言葉に従い後ろを向いて上半身は寝そべらせ、下半身は突き出すように膝を付いた。片手で尻を引っ張り、濡れた後孔を見せつける。
「奥までたくさん突いてください……」
「……もちろんだ」
 イリオスがアステルの腰を強く掴みそのまま突き刺した。
「ああっ」
 すぐに奥まで届きアステルの中を支配する。ひと挿し毎にフェロモンと番となったこととの相乗効果で頭がくらくらするほど快感に包まれた。
「あっ、あっ、ンッ……さっき、よりっ……きもち、いいっ! ぼくっもぅっ……!」
「魂が、繋がったからか……私も……くっ」
 アステルが果てた後ずぐにイリオスの熱情が腹の奥を満たした。
「あ、んっ……あっ……熱いのっ……きもちっ……!」
 イリオスのそれを搾り取ろうと肉筒が小刻みに動く。ヒート中のイリオスはその刺激でまたいきり立った。
「すまない、アステルッ……まだ、付き合って貰うぞ……!」
「んふっ……たくさん、僕の、中にっ……注いで、くださいっ」
 ぐぷぐぷと注がれたイリオスの子種をかき混ぜられ、アステルの後孔から溢れ出てきてしまう。しかし、数え切れぬほど与えられたおかげでアステルの腹はずっと満たされていた。

 数日この部屋に籠って二人は蜜月を楽しんだ。ふとした瞬間、脳が覚醒しその合間に汗を流し食事を取った。けれど、その最中にもどちらともなく誘引フェロモンが発せられ再開となることが多くあった。
 最終的にはアステルがイリオスの中で果てたことで収まる兆しを見せた。しかし、すぐに立ち位置を交代してしまうせいで予定より長く発情期を過ごすこととなった。

 いつ寝たかも分からなかったが、カーテンから差し込む光にアステルは起こされた。体が休息を欲していたが瞼がうっすら開いてしまう。細目で視認した光景に思わず目が見開いた。
「イリオスさま……キラキラしてる……」
「おや、起きたかアステル。まだ寝た方がいい」
 ベッドヘッドに寄りかかり本を読むイリオスはまるで後光が差したかのように輝いていた。そんな姿を見てアステルは泣きそうになった。
 近いけれど少し遠い場所にいたイリオスがアステルの隣で笑いかけてくれる。優秀な兄たちに何一つ勝てなかったが、イリオスへの愛だけは誰にも負けない自信があった。当然、イリオスからの愛も感じていた。
 しかし、約束の日はあまりにも遠く、日々輝きを増すイリオスと離れて過ごす日は不安が募った。魅力溢れるイリオスを誰かが奪ってしまうのではないかと。
 けれど、もう誰にもそれは叶わない。アステルが名実共にイリオスの隣に立つことを許されたからだ。
「イリオスさまは……一緒に寝てくれないんですか?」
「体がいつもの時間に起きてしまったんだが……。そうだな。もう一眠りしよう。アステルの隣はよく眠れそうだからな」
 体を沈めおいでと言うようにイリオスが両手を広げた。もそもそと布団の中を移動しアステルはイリオスの腕の中へと入る。
「うふふっ……だいすきです、イリオスさま」
「私も愛しているよ、アステル。さあもう一眠りしよう」
 頭を撫でられ安心する熱と匂いに包まれながらアステルは瞳を閉じた。


end

***
一応完結です!
続きはWebで! ではなく同人誌で!笑



02/13/25