アステルが王立学院に入学して数ヶ月、友人のバラムが後ろの席で騒がしくしていることにも、授業にも慣れてきていた。少々無理をしたが、先月からは生徒会の補佐員として手伝いをさせて貰えるようになった。おかげでイリオスとの時間が増えたので万々歳だ。
毎日生徒会の仕事があるわけではなく、またイリオスには公務もあったため毎日長い時間一緒にいることはできなかった。しかし、学校に来ている日は必ずわずかでもアステルに会いに来てくれる。去年の寂しい時間が嘘のようだった。
「アステル、昼を一緒に取らないか? 今日は何の予定も入っていないんだ」
「イリオスさま! もちろんです! どこで食べますか?」
午前の授業が終わるとすぐにイリオスがアステルの教室へとやって来た。気付いたアステルはガタッとすぐさま椅子から立ち上がりドアへと足早に駆け寄った。
以前は王太子殿下の登場に教室が騒然としたが、クラスメイトたちには見慣れた光景になっていた。
「私の部屋はどうだ?」
「分かりました。それでは向かいましょう」
アステルは腕組みしたい気持ちを抑えてイリオスと並んで歩いた。
王立学院と言うこともあり、王族には専用の部屋が用意されていた。昼休みに公務を行ったり放課後に慈善活動に行ったりと、何かと忙しい日々を過ごしているからだ。
イリオスはアステルに学生同士の交流を望んでいたので、あまり昼食は一緒に取らなかったが、時々こうして誘ってくれた。
イリオスの部屋に着き当たりを見渡すが、少しだけ様子が違った。
「ああ、アサートなら今日は居ない。彼は教師に呼ばれていたからな。学生は学業優先だ」
「そうだったんですね。いつも一緒でズルいなって思ってたので独り占めできて嬉しいです!」
アステルはテーブルまでの短い間イリオスと腕を組む。私的な空間ならばいくらくっついても良いからだ。
「フフッ、君はセレーナにも嫉妬していたからな」
「……だって、イリオスさまがすっごく優しい目でセレーナ様のことを見るんですもん……」
「五つも離れた妹はかわいいものだろう?」
イリオスの妹であるセレーナは王妃殿下に似たプラチナブロンドの髪を持つ、まさに月のように可憐な少女だった。アステルが王宮へ遊びに行くと時々彼女に会わせてくれて、良好な関係を築いている。しかし、幼い頃は今以上にイリオスを独り占めしたい気持ちが大きく、関係も完全ではなかったため嫉妬しがちだったのだ。
「五歳と一歳ではかわいさの種類が違うからな。セレーナは目に入れても痛くないほどかわいいが、アステルは食べてしまいたいほどかわいいよ」
「……ぼくも、イリオスさまに食べてほしいです」
イリオスがアステルを引き寄せアステルの唇を甘く食む。イリオスのギラつく瞳にアステルの腹の奥がキュンと疼いた。
しかしキスをねだる前にテーブルに着いてしまう。アステルはイリオスが引いてくれた椅子に座り少し唇を尖らせた。
「ちゃんとキス、したかったです……」
「昼食を取ってから、だ。アステルは沢山食べて大きくならないとな」
「実は僕、イリオスさまが思ってるより大きいんですよ……。クラスの中でも大きい方ですし……」
「こんなに小さくてかわいいのに……?」
驚いた顔をするイリオスにこそアステルは驚いた。
昔と比べ二人はほとんど身長が変わらなくなってきていた。アルファ性ということもあり、近く、イリオスの身長を抜かしてしまうだろうと危惧していたからだ。
「ふふっ。僕はちゃんとおっきくなってますよ? でも、かわいいって思ってくれて嬉しいです」
「何を言う。会った時からアステルはずっとかわいいぞ。毎日かわいいを更新しているほどだ」
「僕も毎日イリオスさま大好きが止まりません」
アステルは身を乗り出してイリオスの頬にキスをした。うっとりとした瞳でイリオスを見ると、手を引かれアステルの体勢が崩れる。難なく支えるイリオスにお返しとばかりに額に唇を落とされた。
「……早くご飯を食べてキスしたいから、今日はお膝は我慢ですね」
握られた手はそのままにアステルは椅子に戻る。
「学院ではあまり昼食をゆっくり食べられないからな。仕方あるまい」
学院の昼休みは一時間と貴族の食事にしては短く設定されている。しょんぼり悲しそうにするアステルを見てイリオスが少しだけ思案する。
「今日の夜は空いているか? アステルさえ良ければ城の私の部屋で一緒に夕食はどうだろう?」
「え! お膝ご飯ですか?」
キラッとアステルの瞳が輝き、期待に満ちた目でイリオスを見つめた。
「もちろん。私の膝は何時でもアステルの為に空けているからな」
「嬉しい! 甘いちゅーもいっぱい、ですよ?」
「それは待ち遠しいな」
二人は給仕によって並べられた昼食を早々に食べ終え、ソファーへと移動した。イリオスが先に座り、その上に向かい合うようにアステルが座る。アステルはそのままイリオスの首に手を回して抱きついた。イリオスもアステルの腰に手を回してぴったりと体を寄せる。
「あと五分でここを出ないといけないなんて……早く放課後になって欲しいです」
十分前行動を心掛けるイリオスにあわせて、教室に戻ることを考えるとあまり時間がなかった。アステルは短く時間でイリオスを補給しようと彼の首筋で深く息を吸う。
「……あれ? イリオスさま、いつもより甘くていい匂いがします。石鹸変えましたか? 僕もこの匂いのもの使いたいです」
「……ふむ。アステルにはそう感じるのか。特に変えてはないな。普段通りの石鹸だ」
「でもすごくいい匂いで……ぼく……。ああ、イリオスさま、ちゅーしてください。なんだかすごくちゅーしたくなってきて……!」
体が勝手に熱くなり、上気したとろんと濡れた瞳でアステルがイリオスを求める。キスをして舌を伸ばしノックしても唇で歯んで訴えても、イリオスは頑なに口を開けてはくれなかった。
「甘いの、ほしいです……イリオスさまぁ」
普段であればアステルが望めばいくらでも受け入れてくれるイリオスの拒絶に、アステルは泣きたくなる。
そんなアステルの額に熱い唇が押し付けられる。その熱でイリオスもアステルを求めてくれていると分かった。
「今キスをしたらきっと歯止めが利かなくなる。だから我慢だ、アステル。夜に私の部屋でたくさんしよう」
「分かりました……。でも、もう一回だけお口くっつけてもいいですか? 一回だけくっつけたら我慢します……!」
アステルが俯きながら上目遣いでイリオスを見ると一瞬息を止めてその後はぁと深くため息をつかれた。ただのキスも駄目なのかとじわっと目が熱くなる。泣き顔を見せまいとさらに下を向こうとしたところでイリオスに顎を掴まれ上向きにされる。驚く間もなく唇に柔らかいものが当たった。すぐにそれがイリオスの唇だと気付き夢中で押し付けた。
触れるだけでも嬉しくて離れがたくて、ずっとこのままで居られたらと思わずにはいられなかった。無常にも時間が許してくれず、名残惜し気にどちらともなく離れた。最後にぎゅっとイリオスを抱きしめて、アステルは立ち上がる。そしてイリオスに手を伸ばし、掴んだ手を引き立ち上がらせた。
「今ほど授業に行きたくない時は無いですよ……」
「そうだな。だが、終われば楽しみが待っているだろう? もう少し頑張ろう、アステル」
額にキスを落とされ、それだけでアステルは笑顔になった。午後の授業は大変捗り、剣術の模擬戦では無敗の連勝だった。鼻歌が聞こえてきそうなテンションで挑まれ、対戦相手は恐怖を感じたとか。
この後が楽しみでついイリオスの事ばかり考えていたら時間があっという間に過ぎていた。アステルは素早く帰り支度をし、バラムに別れを告げるとすぐさまエントランスへ向かった。二年生の教室から一番近い柱で立ち止まりイリオスを待つ。
程なくして生徒の流れが変わった。両端に寄り、真ん中を開けるように道が作られている。その間には期待した通りの輝いている人がいた。
「イリオスさま!」
「アステル、待たせたな。それじゃあ行こうか」
「はい!」
アルテルはイリオスに差し出された手を取ってポーチへと出た。視線は感じたが、常に感じているものだったので二人とも気にはならなかった。
人が多いこともあり、少しだけ離れた場所に馬車が停められていた。イリオスが先に乗り込み、アステルが後に続く。普段のアステルならばイリオスの隣もしくは膝に陣取ったが、正面の席に座った。
「どうした、アステル。こちらに来ないのか?」
「……えっと、僕、今日の午後に剣術の授業があったんですね……。なので、お城に着いたらお風呂お借りしたいなって……」
「うん? それとこの距離と何が関係しているんだ?」
理解してくれないイリオスに、アステルは恥ずかしくてもじもじとしてしまう。アステルとて隣に座りたかったが、お年頃だ。剣術の授業で汗をかかない訳もなく、しかし、シャワーの時間は設けられていない。かろうじてタオルで拭いてから着替えを済ませたが、自分では自分の匂いが判断できず距離をとることにした。
「だからですね……その、僕、汗臭いかもしれなくて……。だから密閉された場所で近くに居るのは恥ずかしくて……」
「そんなことを気にしていたのか。おいで、アステル。番の匂いが嫌いなオメガは居ない。むしろ嗅がせて欲しいくらいだ」
羞恥心とイリオスの願いを天秤にかけ、後者が軍配をあげた。耳まで赤くしながら隣に座ろうとするアステルを無常にもイリオスが手を引いて自身の膝に乗せる。アステルは思わず手で顔を隠してしまうが、くんくんと匂いを嗅ぐイリオスの気配を見えないながらも察知した。
「あんまり嗅いじゃだめですよぉ……」
「別に臭くないぞ。むしろアステルの匂いが強くていい匂いだ……」
「でも、恥ずかしいです……!」
アステルはいやいやと首を振るがイリオスはやめてはくれない。むしろ抱き寄せて深く息を吸い込んだ。
「……もし私が汗をかいた後だったらアステルはどうしたい?」
「ずるいです……。そんなのいっぱいくんくんしたいに決まってます……!」
「そういう事だから諦めて嗅がせてくれ」
城に着くまでイリオスに密着した状態で深呼吸されたが、その間にアステルもいつもより甘いイリオスの匂いを堪能した。少しだけくらっとして腹の奥が熱くなった。
馬車が止まると、アステルは頭がぼんやりしたままイリオスに連れられて彼の部屋に入った。そのままいつも通りソファーに先程と同じくイリオスの膝の上に向き合うように座らされる。
「アステル、口を開けて」
言われた通りアステルが口を開けるとすぐに熱くて甘いものが中に入ってきた。念願のキスに夢中で絡め合う。
アステルはただイリオスの舌を味わうだけだが、イリオスは上顎や歯列など敏感な場所に触れてくる。
「んっ……あぅ、ンッ……!」
これまではイリオスが見極めてくれていたのかその兆しを見せたことがなかったが、今日は違った。
頭はぼんやりしているのに体が熱く興奮しているのが分かる。何より腹の奥に熱が溜まっていくようできゅんきゅんと疼き、アステルの下半身が下着を押し上げようとしていた。
それに気付きハッと慌ててイリオスの肩を押して引き離した。
「待って! だめ、だめです!」
「どうして?」
もっとしようと訴えるイリオスの瞳に、頷きそうになるがこれ以上されては体がもたない。アステルは強い意志で首を振って拒否した。
「だめ、なんです……! ぼく、あの、体が変で……。これ以上は、だめです!」
「変? どこがおかしいんだ?」
熱が一気に冷めたとばかりに心配そうな顔でイリオスがアステルを見つめる。アステルは大事にはしたくなかったが、言葉にするのははばかられ口ごもってしまう。
「痛みは? 大丈夫か?」
「痛いとかじゃなくて……あの、あの……!」
アステルはぎゅっと目を瞑り、イリオスの手を取って自分の股に押し付けた。言葉では伝えられないことを直接分からせた。
「……ああ、アステル。君はいつの間に大人になったんだ?」
「ううっ……ごめんなさい……。でも、僕もう、十五歳だから……」
硬くなったそこをゆっくりとイリオスに撫でられる。ビクッと腰が跳ねてアステルはイリオスに抱きついた。
「触っちゃ、だめっ」
「触らせたのはアステルだろう? しかし、こうなったのは私が原因だろう。抜いてあげるから服を緩めよう」
抱きついていた腕を緩まされ真っ赤になった顔のアステルと嬉しそうな顔のイリオスが対峙する。そして、イリオスがアステルの服のボタンを上から順に外していく。スラックスのボタンとファスナーが下ろされ、下着の中からボロンと硬く重いそれが剥き出しにされた。
「イリオスさま!」
アステルの悲鳴が上がる。まさか直接触られるだなんて思ってもみなかったからだ。
「すっかり大きくなって……苦しかっただろう」
イリオスがよしよしと愛おしげにアステルのそれを撫でる。アステルはそんなイリオスの手を慌てて掴んだ。
「ばっちいから! お、お風呂! お風呂入らせてください! そ、それも、自分で処理できます!」
「何を言う。私が原因なのだから、私が処理すべきだろう」
「そ、そうかも……? で、でも、そうだとしてもお風呂に入ってからじゃないと、こんなもの触っちゃダメです!」
一日中洗っておらず、ましてや汗をかいていて、とても王子であるイリオスが触っていいものではない。しかし、引き剥がしたイリオスの手はまたしても不浄のそこに伸びてしまう。
「こんなものだなんて……こんなにかわいいものは世界を探してもここにしかないのに……」
イリオスはうっとりとアステルのそこを見つめ、カリを優しく捻るように撫でた。
「あぁんっ」
普段自慰などしないアステルには強すぎる快楽で、耐えられず逃げるように頭を振った。するとシャツがはだけ、胸があらわになる。それを見たイリオスは息を飲んだ。
「……ああ、アステル……君はこんなにかわいいものを隠していたのか? 私をこれ以上魅了してどうするつもりなんだ……」
「ふぇ? ぼく、何も隠してなんか……ひゃうっ」
アステルの奥まった乳頭がイリオスの舌につつかれる。ちゅうっと吸われ出てくるよう促された。
「だめぇっ、お風呂入って、ないってっ、言ったのにぃ」
軽くイリオスを押しやって、シャツを胸の前出閉じるように掴み隠した。ツーっと流れるアステルの涙に、イリオスの声が焦りを含む。
「すまないアステル。そんなに嫌だったか?」
「イリオスさまにされて嫌なことなんてありません。……でも、運動した後だから……ダメなんです!」
「なぜ? アステルは運動した後の私には触れたくないのか?」
「そんなことは無いです! イリオスさまは運動しててもしてなくてもきれいなので!」
太陽たるイリオスが汚れることなどなかった。たとえ泥を被っていたとしてもアステルは抱きしめるだろう。しかし、自分とイリオスではその身に染みついた穢れの量が違うよに思えてしまう。
「先程も言ったが、同じだよ。私もアステルを尊く思っているけれど、汗をかいていたからといって汚いとは思わない」
「……僕、イリオスさまのこと神聖視しちゃってましたか……?」
「少し、そうかもしれないな。私はいつだってアステルの隣に居る。だから、アステルもそのつもりでいてくれ」
立場もありイリオスを一段も二段も高みに配置してしまう人が多い。くっつきたいと言っていたアステルでさえ、無意識に配してしまっていたのだ。太陽も星も同じ空にあるというのに。
「お隣、嬉しいです……でも、やっぱり僕の太陽だから、きれいな僕をかわいがって欲しいです……」
「私のお星さまがそう言うなら、そうしよう。だが、このままは辛いだろう? 一度抜いてからにしようか」
イリオスが先程勃たせた乳頭とは反対のそれを口に含み舌で転がしつつちゅうちゅうと吸い付いた。アステルの後孔が勝手に収縮する。その動きにすら感じ入ってしまう。
「あんっ、ぁう、ンンっ」
胸を刺激されながらアステル自身を数度扱かれただけでビュッと己の腹に白濁した繁吹きがかかった。
「はぁっ……イリオスさまぁ、僕やっぱり変かもしれません……。お腹がきゅんきゅんするんです……」
「大丈夫。私に任せなさい。お風呂でそこもかわいがってあげよう」
浴室から出た二人はようやく夕飯を取った。もちろんアステルはイリオスの膝の上に座る。カトラリーは持たずに口を開けてイリオスが運んでくれるものを待っていた。
「僕、アルファなのに、変ですか? お腹の奥、イリオスさまにくちゅくちゅしてもらうの、すごく……気持ちよかったんです……」
浴室でアステルは、イリオスに出会った頃から何度も疼いていた腹の奥を彼の指で散々弄って貰った。前でイクよりも気持ち良く、癖になってしまいそうだった。
「それは良かった。私で感じてくれて嬉しいよ。だから、変なんかじゃない。アルファやオメガなど関係なく、男であれば前立腺が感じるように作られている。感度には個人差があるからアステルがたまたま感じやすいだけだろう」
「……僕が、淫乱ってことですか?」
「ハハハッ、そんな言葉どこで覚えてきたんだ?」
一瞬固まったイリオスが盛大に笑い声を上げた。揶揄われてると思いぷくっとアステルの頬が膨らむ。
「もう……イリオスさまは子供とあんなことするんですか?」
「私にとってはずっとかわいいお星さまだからな……つい子供扱いをしてしまう。すまない。大きくなったから手を出したんだ。子供にはしないさ」
「そうでしょう?」
家でもイリオスにも小さい子扱いをされるので、アステルはようやく大人と認められて得意げになる。イリオスの小さな笑い声がまた聞こえたが頬のキスで誤魔化された。
「ああ、大人なアステルだから教えるが、今私は発情期なんだ」
「え!? でも、お風呂でも全然……」
一緒に風呂に入ったがイリオスのそれらまったくと言っていいほど反応していなかった。アステルは自分のことでいっぱいいっぱいだったので、イリオスが達するどころか勃ってすらいなかったことに気がついたのは食事が始まってからだ。
アステルは発情期のオメガを直接見た事がなかったが、イリオスのように普段と変わらない様子ではいられないことは知っていた。
「副作用だな。昼にアステルが反応しただろう? それで追加で薬を飲んだら見事に勃たなくなった。あんなに興奮していたのに、それを体で示せなくて残念だ」
なんて事ないようにイリオスが言うが、きっと強い薬だ。アステルはそれが少し怖くなる。
「僕も抑制剤はいつも飲んでますが……他のアルファは大丈夫ですか?」
イリオスの項はまだ綺麗なままだ。望まない番契約でもされては、噛んだアルファを殺さずにいられる自信がアステルにはなかった。それにきっと優しいイリオスは自分を責めるだろう。そんな姿、アステルは見たくなかった。
「ああ。これまでも何度か学院で発情期を過ごしたがアステルのようになった者はいないな。きっと私たちが運命の番だからだろう」
「それならよかったです。でも、今後は追加でお薬飲んじゃダメですよ? 僕が近つかなければいいってことですよね?」
アステルは妙案が浮かんだと思ったのに、言葉にしただけで胸が苦しくなる。
「……いいのか?」
イリオスの問に答えが詰まる。下唇を噛み、アステルは泣きそうになるのを堪えた。
「いや、ですけど……学院でイリオスさまのお手を煩わせるなんてことはしたくないですし……。あっ! 僕がもう少し強いお薬を飲めば大丈夫かもしれません! 明日それで試してみましょう!」
「それではアステルに副作用が……」
「大丈夫ですよ。今飲んでるものは毎日飲む用なので、そんなに強くはないんです。それに、仮に勃たなくなるなら僕にはいいと思うんですよね……。だから、これからは発情期になりそうだったら教えてくださいね? お薬飲んでから会うようにします!」
すぐに反応してしまうだらしのない下半身をイリオス以外に見られるより、強い薬を飲んだ方がマシだった。加えて、ただでさえ負担の大きいオメガにこれ以上負担を強いることなど、アルファであるアステルにはできなかった。己のオメガを守れぬはアルファである前に騎士の名折れだ。
「もうこうやって発情期にかこつけてアステルをかわいがれないのは残念だが、仕方がないか」
残念がるイリオスにアステルは口を尖らせる。まるで一時の遊びだったのかと責めるように。
「……発情期しかかわいがってくれないつもりだったんですか?」
「まさか! アステルが許すから毎日でもかわいがらせてくれ」
天気より移ろいやすいアステルの機嫌はイリオスの言葉ですぐに回復する。
「ふふっ。また二人だけの秘密ができちゃいましたね」
「……三年は長いな」
嘆息するイリオスにアステルはこてんと寄りかかり上目遣いをした。
「僕の体、たくさんかわいがって、作り替えてください……。そうしたら初夜、失敗しないと思うんです」
「アステルは本当に……私の忍耐力を試すのが好きだな」
「僕だって、こんなことを知って、我慢しなくちゃいけなくなったんですよ?」
くすりと笑ったが、アステルは期待とイリオスの香りでまた兆しが見えてきてしまう。緩めの服を着ているとはいえぴったりとくっついた至近距離だ。彼が己の番の変化に気づかないはずがなかった。
「ああ可哀想に。ご飯を食べ終えたら慰めてあげないと。それまで我慢できるか?」
「……はやくあーんしてください」
おまけ
丁寧にイリオスに全身を磨かれたアステルは精神的にくったりとしていた。風呂場に来る前に一度出したというのに、体を洗うそばから胸やアステルの分身をくにくにと弄られて高まったところで後孔をひと撫でされ果ててしまった。
「まったく、イリオスさまはどこでこんなこと覚えてきたんですか? ……僕、身が持ちそうにありません」
広い浴槽だと言うのに二人は横並びで足を伸ばして座っていた。温かさが心地よい。
イリオスの首元は番の前に晒されており、ツーっと汗のように水滴が滑った。それを舐め取りたいとアステルが思うのは番の本能だろう。
「ハハッ、私はアステルより少し早く大人になったからな。君のために勉強しただけだよ」
「……僕以外とこういうことしたってことですか?」
ぎゅっと胸が痛くなる。アステルよりも一つ年嵩で立場を考えても夜伽の勉強があってもおかしくない。何もしないことを方針とされたアステルとは違うのだ。
「まさか。座学のみで実地は初めてだ」
その一言を聞いて安堵するとともにお互い初めてな事に喜びを感じる。例えイリオスが誰かと経験があったとしても、別れるつもりは無いが、そんなことがあれば少しだけ泣く時間が必要だ。
「それは随分……優秀な生徒みたいですね……」
「お気に召したのならなにより。だが、もう少しだけ付き合ってもらえるか?」
「……イリオスさまが望むならいくらでも」
「それは……期待してしまうな」
イリオスの獲物を見るような熱い眼差しに腹の奥がきゅんとする。求めているのはお互い様だった。
「お手柔らかにお願いします……」
「じゃあ後ろを向いて、そこに手をついて」
「こう、ですか?」
言われた通りに、アステル立ち上がり今ままで背中をつけていた場所とは反対側の浴槽の縁に手を付いた。イリオスに腰を掴まれ、位置を調整される。アステルは尻を突き出すような格好をさせられ少し恥ずかしくなる。
「うん。いい子だ。嫌だったり痛かったりしたら言うんだよ?」
「はぁい」
「じゃあ触るよ」
ほのかに温かい液体が尻にかけられる。イリオスの手で塗り広げられ、後孔の入口を指の平でくにくにと触れられた。アステルはきゅっと反射で孔を締めてしまう。次第に慣れたのか、少しだけ緩んだ瞬間に指が入る。
「あ、んっ……」
「痛くない?」
「だいじょうぶ、ですっ」
アステルはこくこくと頷く。事実、異物感はあったが痛みはなかった。
「少し進めるよ」
イリオスの長い指が中へと押し入れらる。ぐるりと縁を広げるように動かしたかと思うと何かを探すような手つきに変わった。
「ふぁ、……ひゃんっ」
「ここか?」
指先がある場所に触れると全身に電流が走ったかのような快感が広がった。がくんと腰が落ちそうになり、足に力を入れる。
「あぁんっ、これっ、だめぇ」
「ああ、気持ち良さそうだな」
アステルの弱点を重点的に責められる。腰が快感に揺れ、中が収縮しイリオスの指を奥へと誘い込んだ。
「あっ、あっ、んっ、変にっ……変になりゅ! いりおしゅしゃま、たしゅ、けてっ! ああっ」
その快楽に涙を浮かべるアステルは長くはもたなかった。ドビュッと勢いよく水面に欲情がほとばしる。腕が耐えきれずアステルの体制が崩れた。
びくんっびくんと震える体を浅い呼吸で支えると、ぽたぽた残滓をこぼす自身が見える。しかし、さらにその奥の足の間から見えたイリオスのそれは落ち着いたままだった。
「後ろだけでイケて偉いな」
イリオスがアステルの中から指を抜き褒めるように尻を撫でる。そしてアステルのそれに手をやり根元から先に向かって絞るように扱いた。
「あぁんっ、触っちゃ……!」
残っていたものが放出され、アステルの後孔がひくひく動き何かを求める。
なんとか息を整えてアステルは立ち上がりくるっと向きを変えた。そしてその勢いのままイリオスに抱きつく。
「お顔、見れないのいやです……ちゅーもしてくれないともっといやです……」
「怖がらせてしまったか? すまない」
イリオスが抱きしめ返してくれた。アステルは胸だけそらし、イリオスと向かいあうと触れるだけのキスをする。数回それを繰り返えすとイリオスの舌が中へと入ってくる。喜んで受け入れるとまたアステルだけ緩く勃ち上がってしまった。
「フフッ、かわいいな、アステル。今度は向き合ってしようか」
「ううっ……僕ばっかりごめんなさい」
「何を謝ることがある。私で気持ちよくなってくれて嬉しいよ」
イリオスが先に座りその上に乗るよう促される。アステルは彼を跨るように膝立ちをした。両手をイリオスの肩に乗せるともう少し前に来るよう抱き寄せらる。
先程散々いじられたおかげか、アステルはイリオスの指をすんなり受け入れた。体が敏感になっているからか、かすかに波立つお湯にすらぞくりとする。
「んっ」
「もう一本入れるぞ」
柔らかくなったとはいえ一本でもきついそこにゆっくりと指が追加される。一瞬手に力が入るが、イリオスの口付けによって体が弛緩する。
「んふふっ……しゅき……」
アステルが苦しまないようにと心を配ってくれることが嬉しかった。
騎士の家系ということもあり、幼い頃から鍛錬をしてきた。その中で小さな傷や大きな怪我をしてきたアステルは多少の痛みは痛みとして認識しなくなっていた。そうと知ってなお心配してくれるイリオスにアステルの心が暖かくなる。気持ちが溢れて言葉にせずにはいられなかった。
ちゅうちゅうとイリオスの甘い蜜を吸う。上も下も気持ちがよくてアステルは夢中だった。ずっとこのままでいたいと思うのに、イリオスが離れる気配を見せる。仕方なくそれを許したが、離れかけた唇に一瞬だけもう一度触れ未練を残した。濡れた唇を舐めるとイリオスの甘い味がする。
「今度はこっちだ」
「あっ」
イリオスの唇が剥き出しにされたアステルの尖りを咥えた。舌で転がされた後甘噛みされ、じんっと重い快楽が腰に伝わる。
「はぁんっ」
アステルの腰が勝手にへこへこと動き、勃起した先端がイリオスの厚い胸板にあたり意図せず擦りつけてしまう。耐えきれない快感にすぐにでも果ててしまいそうだった。
「あんっ、あっ、お胸……じんじんして、一緒はっ……んぅっ」
体が無意識に刺激を求めて胸をイリオスに押付ける。するとイリオスが慰めるようにちゅうと吸い舌で撫でた後、先程よりも少し強い力でアステルのぷっくりとした媚芯を噛んだ。
「でちゃ……ああっ」
三点の蓄積された熱により決壊する。もう四度目だというのに勢いよくイリオスの胸元を汚した。
「あっ、あっ、ンッ……はぁっ、はぁっ、んぅっ」
「たくさん出て、後ろでもイケて偉いな」
「えらい、ですか? ……へへっ」
また少しひくつく肉筒から指が抜かれアステルの腰にイリオスの手が周り座るよう促される。アステルはパシャっと小さく水しぶきをあげながらイリオスの膝に座り抱きついた。
軽いキスを何度か交わし、アステルは少しだけイリオスの胸で微睡んだ。
end
***
ピクシブにアップしていたのに更新できていなかった……。
もうちょっと続きます。その3
めたくそ甘えん坊ちゃんですね!
02/01/25