朝目が覚めると、健人は起きて早々憂鬱な気分になった。このまま学校に行き、裕樹に話しかけられれでもすれば、今までの生活が一気に変わってしまうかもしれないからだ。昨日の時点で思いもよらなかった事が一つ起きてしまっている。崖から転げ落ちるように物事が進まなければ良いと祈ることしかできない。
 ベッドから起き上がり、すぐさまジャージに着替える。昨夜、裕樹とのことを考えてしまい寝つきが悪かった。その所為か三十分ほど寝坊だ。洗顔と歯磨きを軽くすませ、コップ一杯の牛乳を腹に詰める。玄関へ行きスニーカーに足を突っ込んだ。外へ出ると準備運動を済ませ、少し早いペースで走りだした。ポケットに入れていたイヤフォンをつけ、音楽プレイヤーを起動する。ランダムにJポップが流れ出した。
 走っているときは無心になれる。毎日通ったこのコースならば目を閉じてだって健人は進めた。時間帯的にも道路的にも交通量は少ない。故に、聞こえてくるのはイヤフォンから流れる音楽だけだった。それもきちんと聞いているかといえばそうではない。無心であろうとするあまり、余計に頭を使ってしまった。
 普段より短い距離で引き返し、さっとシャワーを浴びる。そのまま制服に着替え、朝食を取った。
 準備を終え、いつもよりも重く感じるリュックサックを肩にかけ家を出る。再び音楽を流し、歩きだした。
 学校へは普段と同じ、チャイムが鳴る三十分前に着く。教室へは行かず、図書室へと向かった。
 図書室に入ると、先客の姿が見える。よく知るその姿に健人は声を掛けた。
「部長、おはようございます」
「田山君かー、おはよう。今日はそんなに返却ないから楽だよ」
 部長と呼ばれた少女は、健人と同じ図書部に所属しており一つ上の先輩、斉藤彩香だ。胸が大きく、入部投書は目のやり場に困った事もあったが、慣れてしまえば……などといえるほど健人は清純ではなかった。いや、健全であるがゆえに仕方がないと言えるだろう。
 彩香は彩香で己を知っているので、からかい半分に健人に「触る?」などと聞いてくるから慌てる一方だ。
「じゃあ、俺が戻すので、先輩はカードのチェックお願いします」
 市営図書館とは違い、ここの図書室は全てアナログだった。本に付けてある貸出カードと利用カードを交換する形式だ。カードを埋めていく喜びはあれど、記入が面倒だ。管理する側も、本が多い上にその在庫の有無が分かりにくいという不便さがあった。検索などというハイテクな事はできない。
 健人は昨日返却され、時間内に棚に戻せなかった本たちを元の場所へと戻す作業をした。ローテクなわりに利用者がそこそこ居るので、嬉しい限りではあるが仕事が増える。
 背表紙に付けられた番号を見ながら一冊ずつ片付けていくのはなかなかの労力だ。だが二年に上がり、番号と棚の把握ができるようになるとだいぶ作業が楽になった。残り十分と迫ったチャイムに間に合い、どうにか全ての本を戻す事が出来た。
「少ないって言ったの誰だよ……」
 健人は棚の陰に隠れて一人ごちる。健人の睨んだような瞳に見つめられるとゾクゾクするなどという割に彩香は少々意地が悪かった。
「終わりました。何か手伝うことありますか?」
「こっちも終わったから大丈夫。教室戻っていいよ。お昼もよろしくね」
「はい。じゃあお先に失礼します。お疲れさまでした」
「田山君もお疲れー」
 図書室の扉を開き廊下に出るとまた足が重くなる。教室に待つ彼にどう反応すればよいものだろうかと考えながら足を進めた。
 クラスメイトが殆ど揃った教室に健人は入った。親しい友達と挨拶を交わし、席につく。裕樹を盗み見するも、向こうはこちらに見向きもせずケラケラと何人かと話しこんでいた。
 なんだと残念に思うこの気持ちはなんだったのだろうか。疑問に思いながらも、一限に使う教科書をリュックから取り出した。

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題名はきっと終わった頃に思いつくかな?
約一年半ぶりですね。全然進んでません。
もう一人出せただけ良いかな。
部長は多分次に出てくる子と付き合ってます。恋人もち。


08/29/12