眠るアキトの体にずっしりと重いものが被さってきた。息苦しさと胸のこそばゆさにアキトの意識が呼び覚まされる。
 薄く、徐々に目を開くと凛々しく整った顔が全面に飛び込んできた。艶やかな舌によってアキトの乳首がくにゅっと横を向く。頭が起きてくると胸がつんと尖ってきているのが分かった。
「まぐなす……?」
「アキト……好きだ、愛している」
 マグナスの形のいい唇がアキトのそれに重なる。熱く厚みのある舌が歯列に割り込みアキトを絡めとってきた。アキトは起きたての鈍い体を動かし、マグナスに応える。
「んぅっ」
 激しさを増すマグナスの動きにアキトの息が上がる。経験の差か、キスだけでアキトの下半身に熱が集まってくるのが分かった。
「まぐな、んッ……まって、まって……!」
 どうにかマグナスを引き剥がしたが、暗がりでも分かる、その瞳を見てアキトはすべてを理解した。
「マグナス、自分でもわかってると思うけど、すごくエッチな顔してるよ……?」
「知っている。体が熱くて仕方がないんだ。アキト……」
 再び濃厚な口付けが始まり、加えて、マグナスの手がアキトの体をまさぐりだす。胸も太ももも熱を持ったマグナスの手に撫でられる。
 マグナスの体の異変は今回が初めてではない。年に数度、このように理性を凌駕する性的衝動に駆られるのだという。両の性を持っているからか、ホルモンバランスが崩れ、抑えが効かなくなる。
 過去にも何人かの両性に同じ症状が出ており、両性固有の病として扱われてきた。厄介なことに、この症状が出ると周りの者までその熱に引きずられ体を明け渡したくなるのだ。
 体の変異はそれだけでなく、両性に釣り合うだけの精力がつく。普段のアキトならば三回が限度だが、マグナスが満足するまで付き合えるようになる。近衛兵と同等の力と体力を持つマグナスは疲れを知らない。それにつられるのだ。翌日のアキトが使い物になるわけがない。
「んッ……いつものトロン顔がギラギラしてるね。男の子、したいの?」
「どっちも、したい……!」
「男の子も女の子もしたいの? ワガママだね」
 噛み付くようなキスを止めさせて、マグナスの意思を確認するが、最大限の答えだった。久しぶりの受け側に覚悟を決める。
「……嫌いになったか?」
「全然! いいよ。じゃあどっちもしようね」
 不安そうなマグナスを撫で、安心させる。
 普段は入れる側をしているアキトだったが、マグナスと逆の立場でしたことがないわけではなかった。もちろん、マグナスが望むのならどちらでも喜んで受け入れてきた。難点があるとすれば、マグナスとのセックスが良すぎて普段の自分のセックスが彼にとって満足のいくものなのか心配になるくらいだ。
「久しぶりだからゆっくりやってね」
「勿論だ」
 手早く服を脱ぎ捨てて、お互い生まれたままの姿で向かい合う。マグナスの均整のとれた体にはいくつかの傷跡が残っていた。痛みはもうないと言うが、いつ見ても苦しくなる。
 アキトは戦とは無縁――ではないが、平和ぼけした日本では身近に感じる方が難しい――の世界からやってきた。アキトがこの世界に来た数年前に収束したという大戦の傷はどの国もまだ完全には癒えていない。
 アキトは労るように色の変わった胸をちろりと舐める。するとマグナスにベッドへと押し倒された。欲情しきった瞳がそんな悠長な前戯などしている時間はないと訴えてくる。
「それは後でだ、アキト。私は今ギリギリのところに居るんだ」
「そんなに切羽詰まってるなら一回抜く?」
 一回出したところで今のマグナスなら誤差のようなもの。アキトの体力を考えればここで一度抜いてもらった方が気持ちばかりだが楽になる。
「それは……後ででも良いか? アキトの中にどうしても入れたいんだ……」
「おやまあ……かわいこちゃんはそんなに男の子したいんだ」
「したい……はやく、挿れたい……」
 マグナスは潤んだ目をギラギラさせて、大きなそれをさらに大きくしていた。数度撫でれば出してしまうのじゃないかと言うほど先端から涎を垂らしている。
 アキトはよしよしとかわいがってあげたい気持ちを唾と一緒に飲み込んだ。
「そしたら、マグナスの太い指、舐めて。ちょっとずつ俺の中に入れて」
 背中をつき、尻を持ち上げて閉じきった口を指で少し広げてみせる。肉付きが悪く貧相な尻はマグナスのむっちりと張りのあるそれよりも食指が動くとは思えないが、マグナスには絶大な効果を発揮した。
「美味しそうな果実を見せびらかすのはよしてくれ。我慢できなくなる」
 そう言うとむしゃぶりつくように勢いよくアキトの腰を掴み後孔に舌伸ばした。狭い道をこじ開け、長い指が追従する。
 アキトは舌の熱さと圧迫感にキュッと門を閉めてしまう。そしてマグナスの存在をいっそう感じるのだった。
「っぁ、マグナス……!」
 久しぶりの感覚をうまく発散できずに内側でぞわぞわと熱がくすぶる。追い詰めるように増やされた指がバラバラと縦横無尽に動き、隙間を埋めていった。圧迫感がアキトをさいなむ。
「アキトのここ、だいぶ広がってきたな。とろけて、私の指を一緒に溶かしてきそうだ」
「そんな人体溶かしちゃったら俺のお尻もうなくなっちゃってるよ……?」
「……雰囲気を壊すようなことを言わないでくれ」
「ごめん……。だって、マグナスが恥ずかしいこというから……」
 持ち上げられていた腰が下ろされ、アキトの体勢が安定した。マグナスほど柔軟性がないアキトには不安定な格好を長時間することは難しい。
「アキトが入れるときは私にこの程度のことを言っていたように思えるが」
「俺そんなこと言ってた!? それは……気をつけよ……。でも、マグナスがかわいいから言っちゃうかも……」
「お互い同じ気持ちということだ。かわいく応えてくれ」
 アキトが頷くと、マグナスはアキトの足を取りふくらはぎにキスをした。そしてまた、アキトが壊してしまった雰囲気を一気に甘い物に戻す。
「いいか……?」
「うん。でも、ゆっくりお願いします」
 散々ほぐされたがもっと太い物が挿ってくると思うと身構えてしまう。アキトは深呼吸をして体の力を分散させる。そしてマグナスを迎えるように足を開いた。
 切っ先が添えられ、徐々にアキトの中へとマグナスが挿ってくる。
「んぅっ」
 一番太い部分を超えれば後はスムーズに侵入を許した。不安点があるとすればマグナスのそれが長大すぎるところだ。普段のアキトが入れないところまで押し進められる。
「まって、ちょっといったん止まって……!」
「難しいことをいう……っ」
 マグナスは止まることができず入れた側から最奥まで一気に納めきってしまう。じーんと痺れる感覚に思わずアキトはマグナスに手を伸ばした。
「いきなりは、だ……め、だってぇっ」
「すまないっ、だが、体が言うことを……くっ」
 マグナスの腰が激しく前後し、パンパンと小気味よい音が鳴る。前立腺は力強い律動に何度も刺激され、腹部にぽたぽたと先走りが飛び散った。
「あっ、ぁんっ……」
「アキト、アキト……っ」
 手前と奥の繰り返される刺激に早々に気をやってしまいそうになる。
 挿入する側の時とされる側の時では感じる部分が異なるため、快楽の種類も違う。される側のそれは深く、長い。全身で享受させられているようだとアキトは思った。
 訳が分からなくなりそうでアキトは少し苦手だった。長引く熱は一度出すだけでは満足することができない。
 出さずに絶頂を迎えたときなど最悪だ。ずっとそこで溺れて沈みきってしまうのではと錯覚する。そしてマグナスに縋り、助けを求めたくなるのだ。この、いっそ苦しいと感じる快感を解き放ってくれと。
「まぐ、なす、……ちゃんと、きもちっ?」
 男以外の部分で愛されすぎたマグナスは前よりも男でイキづらくなっていた。普段の性行であれば問題ない程度だが、今は違う。早く出したくて仕方がないのになかなかいけないのだ。
 体の熱を発散できないマグナスは眉間に皺を寄せ、絶頂を迎えようと快楽をかき集めている。その頑張っている姿がアキトにはあまりにも愛おしく感じた。
「気持ちいいが、イキたい……アキトぉ……早くイキたい……!」
「ぅん、うん。ちょとまってね。はっぁ……ちょっと動くのゆっくりしてね……っ」
 アキトはマグナスに手を伸ばし、体を倒させる。イキそうな体を叱咤して、よしよしとマグナスの頭を撫でる。そしてまた手を伸ばすのだった──めいっぱいマグナスの下半身めがけて。
「すごいね、もうびしょびしょだ。男の子してたのに女の子も準備万端なんだね?」
 表面に軽く触れただけでそこが濡れきっていることが分かった。そのぬめりを借りてマグナスの後孔を刺激する。さすがに腕が伸びず、表面を突くことしかできなかった。
「アキト……!」
「なあに? もうちょっと触ってあげたらイケそう?」
「もっと、奥までほしい……!」
「それは分身しないとむりだから、これで我慢してね」
 張りがあり形の良い尻を両手で掴みぐにぐにと外側から中を刺激する。するとアキトの中でピクピクとマグナスが動くのを感じた。
「きもちーね。よしよし、じゃあもっと気持ちよくなるために一回出しちゃおうね」
 アキトはマグナスを内外から圧をかけ絶頂を促す。何度か往復するとついに中ではじけた。
「あぅっ」
「んっ」
 マグナスが出し切る前に抜けていき、腹の中から存在感が消えたと思うと今度は腹の上にずしりと重みを感じる。とろけたマグナスは早く次だと言って萎えかけのアキトを頬張ろうと乾きを知らないそこへと押し当てた。


end

***
J庭44のペーパーでした。
発情期をいまいち生かし切れず無念。


03/04/18