「ごめん君、キスしてもいい?」
 訳もわからず頷いて、放課後の図書室で初めてのキスをした。
 乾いた唇に、名前も知らない彼の、柔らかなそれが触れる。心臓が飛び跳ねて、身体が固まった。知らない人なのに、なんだか離れていくのが寂しくて、彼の唇を目で追ってしまう。
「もういっかい、……いい?」
 軽く頷いてまた重なった。感触が気持ち良くて、拒めない。ただ恥ずかしくて、目を閉じた。触れ合うだけなのがもどかしくて、誘うように軽く口を開く。なのに、息を呑んだだけで離れていった。
「――いいの?」
 熱の篭った瞳で見つめ返される。熱過ぎて、どこまでもとろけそうだ。
 周りを少し見渡して、誰もいないことを確認する。
 答えなど決まっていた。無言で立ち上がり唇を押し付ける。伸ばした舌で絡めとった。混ざり合った甘いそれを嚥下する。何もかもが足りなくて、いっぱいに満たされたくて、荒くなる呼吸も行為も抑えられない。快感に震え、このまま立ち続けるのは難しい。どうにかしたいと思っていたら、彼が支えて椅子に戻してくれた。嬉しくて、支えてくれた腕にすがる。もっともっとと雛のように、彼からの施しを待って、時には奪うように手を伸ばした。
 誰もいない、静かな図書室で水音が響く。けれども突然の校内放送で、現実に引き戻された。
「……あっ」
 離れたそれは少し腫れぼったく、てらてらと輝いて、オレを誘っている。気付けばズボンがきつく、自身が押し上げているのが分かった。そのせいで、相手のが気になって見てみれば、同じように苦しそうにしていた。
「オレも、たっちゃった……どうしよう……」
 半分答えの決まった問いかけを投げる。身体に疼く熱は同量に違いない。
「俺の家、すぐなんだけど来る……?」
 想像とほとんど違わない解答に胸が躍る。なのにどこかで冷静な自分がいて、聞かずにはいられなかった。
「うん……、でもその前に教えて。なんで 、したの?」
「ごめんね……一目惚れ、しちゃった。今更だし順番もちぐはぐだけど、名前、聞いてもいい……?」
「オレも。オレもね、アンタのこと、もっと知りたい」
 名前を告げあって、耐えられず、またキスをした。
 深く触れ合いたいと思うのに、彼の家までの時間がもどかしい。小走りで手をひかれながら、誰にも触れられたことのないところがきゅんと疼いた。


end

***
やおいです。


10/19/14