もうもうもう盛り上がっちゃってまーな恋愛映画を克哉が借りてきた。休日だから一緒に見たけど、色々と冷静になるな。
「……オレってお前と付き合ってるんでいいんだよな?」
「何言ってんの。付き合ってるに決まってるでしょ」
「だよなー……いやなんか、こんな盛り上がった時期ないし目の前見えなくなるくらいお前にハマってもないし……」
 克哉に対する気持なんて殆んど一定だ。たまにいじめたくなったり甘えたくなったりするけど、理性が吹っ飛んだことはない。
「人それぞれだと思うよ。まぁ俺はいつでも結人に夢中だけど?」
「はいはい言ってろ」
 心にもないことを。克哉の言葉はいつだって響かない。
 そんなことを思っていたら克哉に腕を引っ張られた。突然のことに対応できず、体重が向こうへ傾く。
「ほんとだって。俺は時間が許す限り結人に触れていたい」
「……ぞわぞわするからやめないか?」
「なんで?」
 ただでさえ背中と克哉の胸が密着してるっていうのに、Tシャツの下から腹を撫でられる。少し冷たくてビクッと一瞬震えた。熱い視線はやらしくて、でもどこかヤる前とは違う。それがオレを冷静でいさせた。
「かわいいね……食べちゃいたいくらいだ」
「まぁ食べて食べられる仲だからな、オレら」
「……もー、もっと乗ってきてよ! 一人でやってると滑稽でしょ!」
 つまらなそうに唇をツンとさせる姿を見て確信した。やっぱり冗談だったようだ。
「やだよ、そんな心にもないこと言いたくないし」
「なら思うがままに俺への気持ちを言ってくれてよかったのに」
「……それは暴言でもか?」
「愛情のみでお願いします」
「暴言でも愛はこもってるぞ?」
「うーん……ならいいかな……」
 悩む克哉がおかしくて、笑いが飛び出した。こういうところがかわいいんだよな。
「よしよし。なら言ってやろう。飛びっきりの愛をこめてな」
 耳元に口を近づけて、誰に聞かれるでもないのに小声で囁いた。
「――――」


end

***

06/29/14





ぼたもちじゅういっこめ





「ゆいとー、いちご買ってきたよ。大ぶりなのに安かったからついつい買っちゃった。もうそんな時期なんだね」
 白いビニール袋をぶら下げて克哉は休日出社から帰宅した。珍しく、定時上がりだったのか予想よりも帰りが早い。
「いちご!? ちょっと待ってろ。コンビニ行ってくる」
 結人は財布を鷲掴み、部屋着のまま家を飛びだした。目的は一つで、小走りでコンビニを目指す。望んだものはすぐに手に入った。久々のいちごだ。ほんの少しリッチにこれと一緒に食べたかった。
「ただいまー。電動の泡立て器どこだっけ?」
「泡立て器? なんで?」
「これ買ってきた」
 ずいと袋ももらわずに握っていたパックを見せると、克哉は納得したように棚から器具を取り出した。
「随分珍しいもの買ってきたね。そんな甘いの好きだっけ?」
「なんかいちごって聞いてそんな気分になったから」
 ボールと泡立て器を受け取って、キッチンで角を立たせる準備をする。勢い余ってなみなみと全てボールに注いでしまったが、大いに越したことはないのでそのままにした。
「生クリームって砂糖入れるよな?」
「あーグラニュー糖あるからそっちの方がいいかも。量気をつけなね」
「はいはい」
 順調に液体から固体に変わって、ふわっと硬すぎない生クリームが出来上がった。ボールをテーブルに運び、冷蔵庫で少し冷やされたいちごと並べる。
「うわめっちゃうまそう。このセットって揃うだけで格段に価値上がるよなー」
「練乳か生クリームかで子供のころ悩んだっけ」
「克哉も生クリーム食べていいから」
「ありがと。結人もいちご食べていいよ」
 まずはいちごだけを口に入れて、そのものの甘さを確認する。甘さの中に酸味もあって、生クリームとの相性は良さそうだと分かりホッとした。
 二つ目はたっぷりある白い泡に沈ませて、コーティングされた状態で頬張る。これぞまさに至極といった具合に、より美味しさが増した。
「うまー」
「うん、生クリームも甘すぎなくて丁度いいね。ちょっと多い気もするけど」
「まぁ食べられるだろ」
「余っても足早いから早めに食べないとね。でも美味しいからすぐなくなりそう」
 パクパク口に入れてもいちごが減る量と生クリームが減る量とでは、絶対数が違うのと飽きるのとで三分の一もクリームが残ってしまった。
「結構余っちゃったね」
「うーん。後ちょっとだし頑張るわ」
 スプーンを出すのも億劫で、人差し指でクリームを掬う。初めは調子よく食べれても、だんだんと重たく気持ち悪くなってくるもので。
「なんかエロいね……」
 バカもいるものだから余計に食べるスピードが落ちる。
「お前も手伝え」
 無理矢理口に突っ込めば、克哉の口元を白く染めた。引っこ抜こうにも甘噛みをされて抜け出せない。
「おい」
「んー?」
「エロいのどっちだよ。……かっちゃんのえっち」
「んっ……エロさは結人には負けるよ。もう完敗」
 口を塞ぐようにもう一度クリームを押し付けた。器用に舐め取られ、舌の動きと白いそれの所為で行為を思い出す。熱くなる身体と、生クリームプレイもいいなとバカの移った頭では正常な判断は最早出来るはずもなかった。


end

***
「俺思ったんだけどさ、明日のコーヒーとかパンとかに塗ればこんな思いして食べなくてよかったんじゃない?」
「お前……それいうのおせーよ……」
という会話をこのあとしました。


06/29/14





ぼたもちじゅうにこめ





 布団を変える時期はいつもどっちつかずだ。寒いのか暑いのか見極めるのが難しい。
 洗濯物がよく乾き温かくなった土曜日、克哉が冬物と夏物の布団を入れ替えた。薄くなった掛け布団はどこか頼りない。まだ少し肌寒い夜を、果たして越せるのだろうか。
 夜になって分かったが、これは寒い。いや、しばらくすれば布団が温まり程よくなるだろう。しかし、しかしだ。今寒いんだから仕方が無い。
 ここより暑いところといえば二つしか思い浮かばない。一つはもちろん風呂場だが、お湯が湧いてないので却下だ。そうなると残りは一つしかなく、非常に気後れする。だからと言って現状を打開できるのはそれ以外考えられない。
 癪だし嫌だが、仕方が無いんだと自分に言い聞かせて部屋を出た。リビングを出てすぐのもう一つの部屋に入る。ノックなどをした記憶が殆どない。克哉がしなかったら怒るが、オレがしない分には良いのだ。
 部屋は真っ暗だが、知り尽くしており足は危な気なくベッドに向かう。掛け布団の端を掴み身体を捻込んだ。
「……っ、なに、なに!? どうしたの!?」
「お前の所為で寒いんだからな」
「え? あー、いやそんな言うほど寒くないよ?」
 確かに克哉の布団はもう十分に温まっていた。そう言う理由も分かる。それでもオレの布団は寒いんだから文句ぐらい言わせてもらう。
「オレんとこは寒いの。だから仕方なくこっち来たんじゃん」
「そっかー一緒に寝たかったのか。よしよし、結人はかわいいね」
 言葉と同時に頭を撫でられたが、その手を払い落とす。
「オレの話聞いてた?」
「うん。聞いてた聞いてた。もう遅いから寝ようね。はい、おやすみ。ちゃんと布団に入ってね」
 掛け布団を肩までかけられ寝るように仕向けてくる。寝にきてるわけだからいいんだけども、少しムカつく。
 オレは大人だから文句を言っても仕方ないので、そのまま目を閉じて布団の中で軽く蹴った。そうしてやっとあったかい布団で眠ることができたのだった。
 起きたら布団が半分なくなってたのは克哉の所為だと思う。


end

***

07/04/14