※同人誌『恋は両成敗』の攻め視点です。


 あーなんでかなー。こんな日に……。
 クリスマスイブだっていうのに、バイト先でまさかの告白。思い出にってホテル連れてこられてヤッていつの間にか寝てたって……ほんと馬鹿すぎる。絶対ヒロ怒るよ……料理作ってくれるって言ってたのに……。
「雄也くんって、タバコ吸うんだね。そういうイメージなかったなぁ」
「昔吸ってて、たまに吸っちゃうんだよね」
 主にエッチの後なんだけどね。臭いを消すのに丁度いいし、頭もスッキリする。後者はもちろんヒロとのエッチの話で。あんなかわいい子前にしたら理性無くなっちゃうからね。キリ付けて吸わないとヒロがボロボロになっちゃう……。ただでさえまだ慣れてないのに。エッチのやり過ぎで嫌われるなんて、そんな真似したくない。
 泣かれるのが嫌で相手にしてるけど、ガス抜きになってて丁度いい。ヒロにも負担かけなくて済む。
「雄也くんとイブ過ごせてほんと夢みたい。勇気出して告白してよかったー」
「ルイちゃんの気持ちには申し訳ないけど、応えられないよ」
「……うん。でも、イブ過ごせたって思い出もらえたし……。約束とかなかったの?」
 自分から誘っておいてそれを言うのってすごいな。有ったけどもう日跨いじゃったし……早くヒロに会いたい。
 タバコを灰皿に押し付けて、帰り支度を素早く済ませた。
「ごめんね。オレ帰るから。ここ泊まっていいよ。払っとくから。じゃ、ほんとごめん」
 返事を聞かないまま部屋を出る。余分に支払いをして、駅を目指す。
 ヒロんちまでの終電はとっくに終わっていて、なんとか乗れる電車で少し近付いた。後はもうタクシーで、そこそこ大きい駅だから、すぐに捕まった。
 過ぎる景色の中、どうしたものかと考える。
 ヒロはオレの浮気が嫌いで、バレるとすぐに怒る。でも泣かないから、それだけは安心だ。
 人が泣く姿なんて見たくない。
 父さんの浮気が原因で、母さんは毎日の様に泣いていた。ある程度地位がある人で、遊ぶ金には困っていなかった。
 泣く母さんを見て、悲しくて、人を泣かせることを出来る限りしないようにしようって思ったら、オレも父さんみたいになってた。単純に、泣かれたくないからで。だから、恋人に浮気がバレたら別れていた。オレと付き合ってるから悲しくなるんだって思って。
 でも、ヒロとは別れたくない。自分勝手だってわけるけど、ヒロは今までの子とは違って、オレから側に居たいって思ったんだ。それにヒロは強いから。オレが弱い分、ヒロが強くあってくれるから。
 原因の母さんは今じゃ離婚して、誠実な義父さんと再婚して、十年たった今でもラブラブだ。それなのにオレは、まだ涙に弱い。
 ヒロのマンションの前でタクシーを降りて、一服する。ニコチンがヒロに触りたい気持ちを抑えた。煙で女のにおいを消して、マンションに入ろうとする。
「……あ、ケーキ」
 ケーキの存在をすっかり忘れていた。買ってくるって言ったのはオレなのに。一時近い今、ケーキ屋なんてやってる訳もなく……。
 仕方なく近くのコンビニに寄った。一人用の物が何とかひとつ残っていて、二人で食べればどんなパティシエが作ったケーキより美味しいはずだとレジに向かう。
 ヒロのことを考えるだけで気持ちが高まる。気分良くヒロのマンションに戻って、もらった合鍵で部屋に入った。
 中は真っ暗だったけど、身体が勝手に安全な道を通って、ぶつかる事なくヒロのところまで導いてくれる。その前に冷蔵庫に寄るのも忘れない。
 寝てるヒロが可愛くて、眺めたい気持ちと抱きしめたい気持ちがいっぺんにくる。無防備過ぎて襲ってしまいそう。そういう、オレの身勝手な心を抑えたり相手を泣かせない方法だったりで、誘われても断らない。ヒロを怖がらせないのが一番だ。
 なのに、我慢と言う言葉をなかなか覚えられないオレはついつい手を伸ばしてしまう。柔らかい髪に触れて、細い肩に触れて。ビクッとヒロの身体が震えた。
「起こしちゃった? ごめんね」
 うっすら開いた目がこちらを見てふにゃりと力のない笑を見せる。オレだって分かったから笑ってくれたんだ。こういう一面がたまらなく愛おしい。
「……んっ……おかえり」
「ただいま。あー、やっぱりヒロが一番だなぁ。ケーキ買ってきたから起きたら食べようね。……だからもうちょっと寝よっか」
 まだ浅い目覚めのヒロを撫でて眠りを誘う。少し詰めてもらって同じ布団に入った。ヒロがいてくれたお陰で暖かい。ぴったりくっついてくるヒロのかわいさは計り知れない。さっき抜いてなかったら危なかった。
 ヒロの匂いと感触を堪能してからオレも眠気に身を任せる。すぐにヒロと同じところまで落ちた。


 起きたらヒロのかわいい顔が怒ってて、それはそれでかわいかった。目覚めからこんなに幸せで、まだ微睡みの中にいる。
「もうちょっと寝ようよ」
「……よく帰ってこれたなお前」
「うーん……ケーキ買ってたら遅くなっちゃった。ごめん」
 事実は事実で、嘘はついていない。言ったらきっと怒るから言えない。
 でもヒロと話すうちに、ヒロの涙を見て、間違っちゃいけない間違えに気付いてしまった。あまりにも馬鹿すぎて、自分をぶん殴ってもぶん殴られても許されない。
「ごめんね、ヒロ。オレ、バカだったね……。もう、もう泣かせたりしないから。ちゃんと断るから」
 でももう間違えない。泣かせちゃいけないのはどうでもいい女の子じゃなくて、ヒロだ。ヒロが一番泣かせちゃいけない相手だった。
「オレ、分かったから。今やっと分かったから」
「……何をだよ」
「一番大切なこと。ヒロが大好きってこと」
 後悔で押し潰されそうになる。もうこんな涙、流させちゃいけない。
 強く抱きしめると、ヒロの重さを改めて知った。こんなに大事なもの、オレは抱えてたのに。ヒロの優しさに付け込んで甘えてたんだ。
「いま、ごろ、俺の重要さに気付いたのか」
 涙声に誓を立てる。時間は戻りっこないけど、未来はまだ始まってないのだから。
「うん。ごめんね。遅すぎたね……ごめんね」
「……分かればいい。許してやる」
 好きが溢れてくる。言葉にして、身体中で叫んで伝えたい。
「ヒロだいすき……だいすき……ちゅーしていい?」
 甘いキスのあと、甘くない現実がまたオレに降り掛かってくるとはこの時知る由もなかった。


end

***
本編ありきの不親切なSSでした……。


05/12/14