「三月三日です。さて今日は何の日でしょうか」
 まだ当分片付きそうにないコタツに、結人は寝転がり肩まで入り、克哉はソファーを背もたれに足だけ入れていた。そんな結人が克哉に尋ねてくる。克哉はなんだかデジャブを覚え嫌な予感がした。
「それ先月もしなかったか?」
「してません。先月はオレが自分でやりました。なので、オレはひなあられを献上するようにお前に命令します」
「なんで?」
「オレが食べたいからに決まってんだろ。豆はオレが買ってきたんだからひなあられくらい買ってきてくれたっていいだろ」
 結人のわがままは今に始まったことではない。だからといって、克哉はこんな寒いのにコタツから出る気にはなれなかった。普段であれば結人の笑顔が見れるのならばと喜んでコンビニに行くのだが、残念ながらそれは休業中だ。
「それくらい自分で買いなよ。一緒にならまだしも一人ではやだよ」
「オレだってやだよ! ひなあられって女の子のためのお菓子じゃん! 恥ずかしくて買えねえじゃん!」
「え? あ、そっちなの? 大丈夫だって。店員さんそんなのいちいち気にしないから」
 理由が判明したので行っておいでと背中を押す。だが、それでも結人は動こうとしなかった。
「行ってきなよ」
「お前はさ、いいよ。イケメンだし、どうせ彼女のお使いだろってなるから……でもオレなんてどうせこんなんだし。なにあれ男の癖にひなあられとかキモーイとかさー思われてたら辛いじゃん!」
 急に弱気になった結人にどう反応すれば良いのか分からない。なんだか変なスイッチか入ってしまっているようだ。克哉は懸命に言葉を探した。
「そんなふうに誰も思わないよ。大丈夫だって。それに、結人だって別に恋人がいてもおかしくないし。現に俺がいるし……」
「……節分の時、豆食べたよな?」
「食べたけど……それは結人がくれたからで。それに俺は恵方巻買ってきたし、おあいこだよね?」
 そういうとうっと結人は黙りこんだ。眉間に皺を寄せ、何かを考えているように見える。反論が見つからないことを祈りつつ、結人を見守った。
 しかしながら閃いた顔を見せた結人は可愛らしく、悪魔のようだと感じた。
「あ、じゃあさ、例えばひなあられとゴム買ったらどうよ。神聖な女の子の日を穢してるだろ! 買えねえだろ!」
 また随分と極端な例を持ち出してきたものだ。結人の思考回路はどうなっているのか克哉は気になりだした。当然そんなことを言えばまた機嫌を損ねてしまうので、言うわけにはいかない。
「そういう状況そうそうないって」
「でもだってそういうことじゃん! イケメンなら許されるけど、オレ違うし、女の子のもの買えない!」
「仕方ないなぁ。なら試しに買ってきなよ。絶対気にしすぎだったって分かるよ」
 きょとんとした結人の顔はこれまた非常に可愛らしかった。また、そこまで言われるほどではないと思っていたが、結人にイケメンと褒められることを単純に喜んだ。今日は挿れさせてほしいな、などと不順な方向に思考が飛んだので、自らストップをかける。
「ひなあられを?」
「と、ゴムも」
「なんで!? ゴムなら箱で残ってんだろ!」
「大丈夫。後ろから見ててあげるから」
「それこそダメだわ。ホモって思われんだろ、ホモだけど」
 最後の一言は随分小さい声だった。結人はもともとヘテロであり、克哉以外の男を意識しているようにも見えない。つまりそれは、克哉にとって非常に嬉しい一言だった。結人がホモだと言うことは、克哉を愛していると言うことと同じだからだ。
 そう思うと思わず頬が緩み、克哉はにやけるのを止められない。
「俺、その俺だけ感が好き。普段女の子見てて心配だけど、嬉しい。好きだよ」
「……タイミング違うと思うんだけど、どうかね」
「あってるあってる」
 照れだす結人は格段に可愛かった。心のカメラで連射する。恥ずかしくなったのか、結人はぐるっと半回転し顔が見えなくなってしまった。ついでに結人から後ろ足で押されるようにキックを受ける。あぐらをかいていた克哉のちょうど膝に当たり、全く効果はなかった。結人からの愛を感じるだけに終わる。
「結人かわいいから買ってあげる。でも一緒に行ってくれなきゃ行かないよ」
「ゴムは?」
「え、あ、ゴムも欲しい? 別に買ってもいいけど」
「いらねーよ! ほら、買いに行くぞ」
 二人は部屋着のままだったが、コンビニならばとコートを羽織って外へ出た。


end

***
J庭34のペーパーでした。


03/03/13





その後





「ただいまー」
「はい、ただいま」
 結局結人は克哉に羞恥プレイをさせられた。家にまだ箱で残っていると言うのに『極薄0.02ミリ』などと普段より薄いヤツを買わされた。ひなあられと一緒に。
 あまりの恥ずかしさに俯き無言を貫き通した。その間克哉は寒いと言うのに、わざわざコンビニの外で待っていたのだ。購入後早足で克哉の元へと向かい、結人は袋をつきだし「この鬼畜野郎め!!」と言い放って荷物を投げ渡した。
 帰りは冷たい克哉の手を握り、無駄に力を入れて痛みを与える。痛がる素振りをまったくしなかったので結人は悔しい思いをしただけだった。
 家に入ると結人は靴を脱ぎ、早々にこたつに潜り込んだ。
「うーさみい」
 電源を入れてもなかなか暖まらないこたつの中で身体を縮こませる。布団も少し離れただけで少し冷たくなっていた。
「こら結人。手洗いうがいはきちんとしなよ」
 後ろのキッチンの流しで水を流す音がする。克哉は冷水で手を洗っているんだろうと考えるだけで寒さが増した。
「運転つけて温かくなったら教えて。洗いに行くから」
「もう温かいからおいで」
 仕方なく腰を上げ、通り過ぎたキッチンを目指す。靴下越しに床の冷たさが伝わってくる。
 ジャージャーと蛇口から流れる水は湯気を出していた。
「ほんとに温かいんだ」
「嘘ついても仕方ないだろ?」
 軽く手をお湯に潜らせ、流しの横にあるハンドソープをワンプッシュして手をこすり合わせる。ぬるぬるが全体に行き渡るとお湯で泡を流した。温かくて芯から温まる。このままずっとここに居たいと思った。
「水もったいないからこたつに戻って」
 水道を止められタオルで克哉に手を拭かれる。そのまま背中を押され、結人はこたつに入れられた。こたつはだいぶ温かさを取り戻していて、お湯ほどではないが身体が温まってくる。
「やっぱりこたつは良いね」
 結人と対面して克哉もこたつに入った。わざとなのか足をぶつけられる。触れたところが冷たいのが不満だ。
「さいこー。だから離れたくない」
「夕飯作るのは手伝ってよ」
「エアコン付けてならやる」
 手伝うとは言ったものの、料理を作るのは克哉の仕事だ。結人はただサラダやテーブルの準備をするだけである。
「絶対だよ。手伝わないと作らないから」
「手伝う手伝う」
 適当に返事をして、結人はコンビニの袋からひなあられを引っ張り出した。綺麗に口を開け、パクっと一つ口に放る。舌の上に甘みが広がり、ふにゃっと少し溶けた。それを上顎で潰し飲み込む。
「俺にもちょうだい」
「ゴム買わせた奴が何を言うか」
「今日使えばなくなるよ」
「鬼畜で変態って手に負えないぞ」
 自分のことは棚に上げ、結人は憐れみと軽蔑の籠った目で克哉を見つめた。
「結人が拾ってくれるだろうから良いよ。それよりせっかく買ったから使いたい、なって……」
 少し恥ずかしそうに言うのが余計にいやらしさを生んだ。結人は少し呆れた。
「結局変態かよ」
「うん。変態だから結人の中に入れたいなーなんて……」
「そっち?」
 回数的に見て、克哉が下になることの方が多い。大学時代はほぼ確実に結人が突っ込んでいた。理由は特にないが、男として攻めたい気持ちが結人の方が強いのだろう。そして、引きこんでしまった負い目を克哉は感じているのかもしれない。それに甘えてしまうのが結人だった。
「だ、だめ?」
「だめ……じゃないけど、最近使ってないし痛くすんなよ」
「それはもちろん! 最大限の優しさで触れさせていただきます!」
 克哉の張り切り加減が見ていて気持ち悪い。結人はたまには上を譲ろうとぼんやり思った。可哀想な克哉を見るのは別の時でいい。
 冷気が入ってきたかと思うと、克哉が立ち上がり彼の部屋へと入っていく。するとローション片手にすぐ戻ってきた。
「お風呂あとでいいよね?」
「どっちでも」
「あ、危ないからこたつ切るよ。カーペットつけるから我慢してね」
 結人が返事をする前に克哉はどんどん進めていく。
「え、なに。ここですんの?」
「ベッドがいい? 結人寒いって言って動かなそうだったから」
「確かに動くと寒いし……ここでいっか。下だけ脱げばいいよな? 上寒いからやだ」
「待って! 俺が脱がすからっ」
 脱がす着せるは克哉の得意分野だ。結人が面倒くさい時はいつも頼んでいた。今は任せずともよかったが、克哉の気持ちも分かるので好きなようにさせる。
 克哉が同じところに入ってきた所為で、寝返りが余裕で打てたのにできなくなった。
 狭い中でもぞもぞと克哉が結人のズボンを脱がせていく。直に当たるカーペットが少し怖かったが、思いの外温かくならなかった。低く設定されているのだろう。
「寒くない?」
「まだ保温されてる」
「よかった。狭いから中入るね」
 そう言って克哉はこたつに潜り込んだ。結人は部屋に自分ひとりになったみたいで、なんだか変な気分だった。
 中で無防備な息子を触られる。急所を触られるのはまだ少し慣れない。さらに後ろとくれば思わず構えてしまう。
「んぅ」
 全体が温かいものに包まれた。舌で舐められてちゅうっと吸われる。玉まで弄られた。段々舌が下がっていき、会陰を通って孔に達する。
「あっ……克哉! 舐めなくていいからローションで慣らして早く入れろよ!」
 ゾワゾワするので後ろを舐められるのはあまり好きではなかった。何でか克哉は好きなようで舐めたがる。
「うっ……あっ、こ、ら! くっそ」
 言うことを聞かない克哉はこれでもかと言うほど舐めてきた。舌が中に入って奥まで触れられる。
「あっあっ、やだっつってんじゃんっ。聞けばか!」
 こたつの布団を持ち上げて舐め続ける克哉を睨んだ。克哉は目が合うと顔を上げて口をとがらせた。
「えーいいじゃん。こっちすごいビンビンだし、気持ちくない訳じゃないでしょ?」
 放置されていた息子を扱かれ元気な自身を見せつけられる。
「だからって好きか嫌いかは関係ないだろ。やなんだよ。だから早くローションぶっかけて指とちんこぶちこめ」
「それじゃあすぐ終わりってなるだろ? ゆっくりじっくり責めたい気分なの。かわいい結人をかわいがりたいの。分かる?」
「分かんない却下。ローション貸せ。オレがやる」
「いれさせてくれるって言ったじゃん!!」
 騒ぐ克哉を無視して手を突き出し渡すように訴えた。
「お前舐めてばっかで進まないからオレが慣らすって言ってんの。入れていいから貸せって」
「え……結人が自分でするの? 待ってちょっと待って。考えるから」
「顔がマジ過ぎてキモい」
 ベタベタになった下半身をこたつから抜きだす。ボトルを奪い取り、中身を掌に垂らしてキャップを閉める。右腕で体を支えるため、こたつのテーブルに体重をかける。息を吐き、心を落ち着かせ結人は覚悟を決めた。
「んっ」
 左手の人差し指を中に入れる。滑りもあってすんなり奥へと進めた。余裕に思いすぐに二本目を追加する。入口を柔らかくするために指を離したりくっつけたりした。
 だいぶほぐれたので指をさらに中に押し入れる。圧迫感があったが苦しいほどではない。今度は深く指を沈めた。自分の中は熱く柔らかい。克哉と同じようだが少し違う。克哉のはもっと柔らかい気がした。
「あ、――くっ」
 前立腺をかすった。腰が震え、強い快感が背中を走る。
「……絶景過ぎてもうダメだよ俺……入れていい?」
「んっ、いいけど……」
「濡れないように布団持ってたけどこの角度やばすぎるよ。いやらしく揺れる腰がたまんないっ」
 どうやらこたつの中にいた克哉には結人の下半身しか見えていなかったようで、ずっと見られ続けていたかと思うと急に恥ずかしくなった。反対側から出て回り込んできた克哉の頭を軽く叩く。
「ニヤニヤしてて気持ちわりぃ」
「いやだってほんとやばかったもん。俺危うくイきかけたよ。結人も見たらわかるって!」
「お前の下半身見ただけじゃイけねえよ。早くズボン脱いで入れるんなら入れろ」
 さきほど忘れていたこたつの布団を持ち上げテーブルと腕で押さえつける。余計に尻を突き出して、触ってもないのに結人と同じくらいいきり立っている克哉を誘う。
 前をくつろげ、手早くゴムを装着した克哉に腰を両手で挟まれた。克哉はローションで濡れた尻の間をぬるぬると滑らせている。
「いれるよ」
 チクッと背中に触れられたと思うと、尻に熱いものが入ってくる。
「う……んっ」
 慣らしてはいても、久しぶりの行為は少しの痛みを伴った。入れられる時よりも出される時の方が辛い。しばらく動かないでくれと結人は祈りながら克哉が納まるのを待った。
「はい、ったよ……」
「まだ動くなよ……っ」
「うんうん。俺もちょっと、あのちょっとまってね。久しぶりだからなんかすごい、……うん、まって」
 一人でごちゃごちゃ言いっているが待ってくれるらしい。入っているだけでもずいぶん主張してくる。中にあるのが嫌でも分かってしまう。
「も、大丈夫?」
「びみょーだけど、いいへーきっ」
 手の下の布団を握りしめた。ゆっくりと中から克哉が出て行く。内側から持っていかれそうで、ちょっとした恐怖と背中を走るぞわぞわ感がギュッと尻に力を入れさせた。その所為で余計に克哉を感じてしまう。
「あっ、あ――くぅ」
「だめだよ結人、締め付けないでっ」
「む、りっ」
 声なんか恥ずかしくて出したくない。だが歯を食いしばると力が他の所にも加わってしまう。悪循環が結人を快楽で苦しめた。
 繰り返される抽挿に加え、克哉の手に結人のを握られる。ちょうどいい力で扱かれれば男なら誰でもだらだら涎を垂らすだろう。
「あ、やっ……さわんなっ」
「結人も締め付けすぎだって、いってるじゃんっ」
 克哉の声がいつもよりも艶っぽさを含んでいた。  お互いの息遣いと肌が触れる音が頭の奥で充満する。内側と外側と精神的な高ぶりで、結人は暴れたくなった。出したい欲求が一番なはずなのに強烈過ぎて逃げ出したくなる。
「はっあっ――おれ、もっ……やだっでるっ……!」
「いいよっ、俺も、そろそろっ――あ、うんんっ」
 中に出されたと感じるのと克哉の手に放出したのにはどれくらいの差があっただろう。
 浅い息を吸う克哉が背中に乗ってきた。そのまま重みで結人もテーブルに倒れる。
「はあはあ……ばか、おもい」
「ごめん……今どけない……」
 克哉の息が整うまで、ほんのり汗ばんだ身体を服越しにテーブルに押し続けた。
 克哉の体重と一物から解放されたが、尻はまだ異物が入っているような違和感がある。
「やっぱり薄いと直に感じてるみたいですごいね。俺もう入れた瞬間危なかったよ」
「オレはその時痛かったけどな」
「ごめんね。でもたまにまたしたいな」
「……たまに、な」
「うん!」
 かわいい笑顔で言うものだから、本当にたまにならいいかと思ってしまう。慣れた快感の方が受け入れやすい。だからと言って、慣れたくはないので結人が許す時以外立場の交換はない。克哉に待てを教えるのも自分の役目だと勝手に結人の中で決まっていた。
「汗かいたし、風呂入るか。つかお前全然服脱いでないじゃん」
「脱ぐ暇なかった……」
「……ばか」

end

***
よし! えっちおわった!
WEBでは初えっちでした。基本形は逆です。


04/07/13