エアコンが欠かせなくなった晩秋、それでも寒いという訴えが認められこたつが導入された。さらに床には電気カーペットが敷かれ、防寒は完璧だ。加えて実家に届いたみかんが分配され、テーブルに置かれた皿にこんもりと積まれている。ここに猫でもいれば言うことはないが、残念ながらペット不可の物件で買う目処はついていない。
「ほら結人、お皿とお箸出して」
「こたつがオレに夢中で出してくれない」
「んなバカなこと言ってないで手伝って。夕飯出さないよ?」
 こたつを使うならとエアコンは節電のために消されている。つまり一歩でもこたつから出れば寒い。克哉はよく動けるなと思いながら結人はのそのそとカーペットを這った。
 境目のフローリングに触れるとやはり冷たい。こんなところを歩くのは温もりに包まれていた結人には至難の技だった。
 ちらりと克哉を見ると、最近買ってきたもこもこと暖かそうなスリッパを履いている。結人の分もあったが、面倒くさいと玄関に置かれたままだ。
「並べ終えたらご飯よそってくれる?」
 意を決して立ち上がり、フローリングを踏むと一気に冷たさが全身に行き渡った。
「オレこんな寒いの無理……」
「頑張って。俺も早くこたつに入りたいんだから」
 結人はつま先立ちで素早く任務を遂行する。終わるとまた震えながらこたつに潜り込んだ。
「無理無理、寒すぎて死んじゃう」
「こんなんじゃ死なないから大丈夫」
 ゴトンと食器を並べ終えた克哉が結人の左隣に入った。一瞬外気が入りブルっと結人が震える。
「あーあったかー」
「克哉のせいで今寒かった」
「ごめんごめん。さっ食べよ」
 サラダに青椒肉絲、ご飯に味噌汁が本日の夕飯だ。そして家で冷えてるクリアな発泡酒(五百ml)を二人で分けて飲み干した。
「オレの心をウキウキワクワクさせるのはこたつだけさ……」
「何言ってるの。洗うから持ってきて」
「克哉冷たくないか? 心も冬になった?」
 結人は寒いという様に両手で自身を抱きしめ、二の腕をさする。
「なってない。結人がこたつとばっかりいるから焼いてるの」
「なんだー、そうかそうか。お前のとこあっためておいてやるから早く戻って来い」
 手伝う気はないと判断した克哉は溜息を一つ置いて、食器を下げにキッチンに向かった。結人が点けたテレビの音を聴きながら洗い物を片付ける。少しでも手伝わせようと、台布巾を結人に投げ渡した。
「拭いといて」
「はいはい」
 克哉は食器を棚に戻し終えると布巾を回収しにこたつへも戻る。拭いた形跡を確認するとまた直ぐにキッチンにUターンした。そしてまた帰ってくると、克哉の身体もこたつに吸収される。
「お腹が落ち着いたらお風呂入ろうね」
「風呂場まで寒い」
「寝間着はもう向うに置いてあるから、ちょっとの我慢ですぐ芯からあったまるよ」
 風呂場でガチガチと歯が鳴らせたが、温かくなるにつれ今度は出たくなくなるのが結人だった。またしても克哉に引っ張られながら風呂を出ると、服を着て真っ先にこたつへと向かう。
「髪ちゃんと乾かさないとだめだって言ってるだろう」
「短いから勝手に乾くって」
 ぬくぬくと温めたままだったこたつには勝てない。
「飲み物ちょーだい」
「はいはい」
 流石に出させるだけでは申し訳ないので、テーブルにあるみかんを一つ剥いてやった。白い筋も結人にしては綺麗に向いた方だ。ついでに自分の分も綺麗に剥いた。
「ありがと」
 克哉がコップを二つ持ってくるとテーブルの上に置いた。甘い香りが漂ってくる。最近克哉が好んで飲んでいる柚子茶だ。
「どういたしまして」
「みかん剥いたから食えば?」
「なら食べさせて?」
 今日の功績を考えた結果、結人はみかんを一粒摘まんで克哉の口元に運ぶことにした。こたつを出した評価は非常に高い。
 おいしそうに食べる克哉に、もう一粒おまけして食べさせた。
「こんなおいしいみかん久しぶり」
「そりゃよかった」
 結人も自分用のみかんを食べる。だが克哉とは別の物だったからか、普段と変わらない味だった。
 柚子茶も飲み、満たされると今度は眠気が襲ってくる。身体をずらし寝っ転がると、逆サイドに居る克哉が邪魔になってきた。
「ずるい。俺もちょっとだけー」
 そういうと結人と同じように足を伸ばしてくる。
「やめろっ、臭い!」
「臭くないよ。さっき一緒にお風呂入ったじゃん」
「気持ちの問題。どかせどかせ」
 結人は克哉の足に乗っかったり緩いパンチをお見舞いしたりと攻撃をしかけた。そうすると仕方なくという感じに足が引っ込められる。
「なんだよー良いじゃんか」
「誰が好き好んでお前の足なんかに顔近付けたがるんだよ」
 しょげた克哉を見ると今度はこっちへ来いと呼び寄せた。
「お前はこっち!」
 結人がこたつの足に寄ってスペースを開ける。そして、そこに入れと克哉に言ったのだ。
「え、入っていいの?」
「臭い足より断然マシだからな」
「ほんとに? 入るよ?」
「布団上げてんの寒いんだから早く入れよ!」
 そう言うと克哉は素早くこたつに入った。
 大人二人では当然狭いが、入れないことはない。ギリギリ足に当たらない程度には空間が空いている。
 大きめのこたつを買って良かったと克哉は当時の自分を褒めた。元々結人が寝ることを考えて買ったこたつだ。多少大きく場所を取っても、問題ないと思い購入した。それがこういう風に使われるとは予想外の良い展開だと克哉の頬が弛んだ。
「ニヤけるなよきもちわりい」
「入れてくれてありがと。あったかい」
 ぎゅうっと克哉に抱き締められた。返しはしなかったが、大人しく受け入れる。
「あと、別にお前の足臭くないから」
「うん、知ってる」
 余計に克哉の顔がゆるんだ。それを見るのが嫌で頬を両手で引っ張る。痛いと言うわりに笑顔だった。
「いい加減笑うのやめろよ」
「結人が好きすぎて無理。今なら死んでも良いかも」
「その台詞、聞きあきた」


end

***
このあと克哉が結人に布団一枚持って来させられて一緒にこたつで寝ます。


01/14/13