絵具を乗せた筆を水の張った小さなバケツにちょんとつける。じわりと丸く青が広がった。少し距離をとって赤を置けば混ざることなく境界線を引く。筆先でぐるりとかいてやれば、薄く伸びた色は合わさり重く垂れさがった藤の様な色ができた。
「なに遊んでんだ。早く描かないと授業終わるぞ」
「分かってる。でもなんも思いつかないだもん。仕方ないだろ」
 ばちゃばちゃとバケツの水で筆を洗う。少量の絵の具だったからかほとんど色は初めのままだった。
 どうにか空想画を描き終えた俺は、作品の裏に名前を書いて白いスチールの乾燥棚にそれを置いた。他のクラスメイトの物は俺よりも色の種類が豊富だ。俺のはといえば、赤と青の二色で描いた絵は自分でもよく分かっていない丸やら三角やらが無造作に散らばっている。空想画というよりも抽象画といえる。提出さえすれば問題ない授業だ。問題ないだろう。
「出したなら片付けて飯にしようぜ」
「おう」
 絵の具を使う時はいつも水道が混み合う。並んでいる間に軽く汚れた水で筆を洗った。
 片付けを終え教室に戻るともう休み時間は半分も残っていなかった。急いで弁当を口に掻き込む。詰まりそうになったご飯をペッドボトルに入った麦茶で流した。
「はい、ごっそさん!」
「はえーよ」
 そういいつつも後数口で終わりそうだ。俺は弁当箱を鞄にしまい、ハルトが食べ終わるのを眺めた。
「時間まだあるよな? 次の現国お前当たるから気をつけろよ」
「げっ。もうそんなにまわってきてんの」
「まあ当たるとしてもお前は朗読だと思うし。平気だろ」
 少々不真面目な俺の心強い友人だ。こいつがいなければ補習授業に泣く長期休みを過ごすとこだった。長い時間俺と過ごしてるはずなのに、俺に引き摺られることなく怠けることをしない。きっちり高得点をキープしていた。当然、俺がハルトの様に真面目に取り組むこともない。水面で混ざらない絵の具みたいに。
「ありがとなー」
「いえいえ、お気になさらず。それより六限の単語テスト、忘れてないよな?」
 そう言えばそんな物もあったな……。明後日を向きかけたが、まだ現国の時間がある。きっとどうにかなるだろう。
「ん、大丈夫大丈夫」
 現国も英語もまあまあといったところだった。その場限りで覚えた単語などテストが終わった瞬間に消え去った。これをまた中間や期末テストで繰り返すのだ。
「漸く解放されたー!」
「はいはい、お疲れ。帰るぞ」
 先に教室を出たハルトを追いかける。走らず、あくまでも自分のペースで。ここで走れば俺が俺でなくなりこいつも俺から離れていく。そう思わずにはいられない。
 俺が俺であるからこそ、ハルトは俺の隣に立ち面倒を見てくれる。どちらかが強くあっても弱くあってもいけない。混ざり合う関係ではないのだから。
「どっかよってくか?」
「んー、マックなら。お前塾は?」
「あるけど、たまにはな」
「……お前がいいならいいけど」
 歩幅の違う俺たちがどうして同じ速度で歩いているのか。考えもしなかった。だから、気付かなかったのだ。そもそも、気付いた時には遅かった。知らぬ間に浸食した色は元の鮮やかな原色には戻れない。奪われた欠片も返ってはこなかった。


end

***
授業の課題です。
ほも書いてすみませんでした。
でも、ほもしか書けないなって……すみません。
本当に久しぶりでもう……単位ください><

07/17/12