それは、酷い嵐の夜だった。雷鳴は轟き、光は何度も山肌を刺した。
 間無き閃光に、人々は怯え、山のものたちは落雷による火災から逃げ回る。
 そんな荒れる山奥に、深い洞窟があった。中は複雑に入り組み、迷ったら最後、黄泉に誘われるとして彼岸窟と呼び、山麓の者は避けていた。
 最奥には泳ぎ回れるほど大きな温泉が湧いていた。水蒸気により、天井からはポタポタと滴が落ち、洞窟全体であちらこちらに跳ねる。
 一光の大きな咆哮の後、稲妻が洞窟の直ぐ側に落ちた。その光は暗く闇に包まれた彼岸窟内を照らした。滴が反射しあい、奥まで微かな光を届ける。
 ぽちゃん、と温泉に落ちた光は一滴の雫。それは個体となり、深い水底に転がった。少し経つと、丸い個体は受精卵のように分裂を始めた。一刻で季節が巡ったような早さで、核は人と同じ成長を見せる。温水が羊水のかわりに少しずつ形作られていく身体を包み、臍帯のように大地の力を送った。
 三日も経てば、今にも母体から出てきそうな胎児と同形になっていた。一つ違うとすれば、その柔らかい背に灰色の小さな翼を生やしていることだ。
 嵐の夜から六日が経った。暗い洞窟にザリザリと足音が響きわたる。山伏のように法衣を着た男がやってきた。服の上からもわかる無駄のない身体が、バシャバシャと音を立てて温泉に入る。結われた髪は長く、水中で揺れる。
 不思議なことに彼は息をしていた。温かな水の中で。
 水を掻く手足は中央の一番深い水底に居る赤子の所まで大きく進む。彼は赤子をそっと抱き上げ、水面に浮上した。岸までゆっくりと前進し、地上へと上がった。
 意識的に肺を窄め、満たされていた水を吐き出す。自力では出来ないであろう赤子に、人工呼吸の要領で水を吐かせた。これが赤子にとって、陸上で初めての呼吸だった。
 着た道を赤子と共に戻った彼は、今まで見当たらなかった背に羽を生やし、羽ばたかせ山の山頂に向かった。服の穴から出るそれは漆黒の輝きを持ち、彼の背ほども大きくしっかりとしていた。
 山頂にある古びた社。その裏手に社と同じ年代に建てられたであろう茅葺き屋根の少し大きな家屋がある。里に神が移ってからは、ここに住む者はいなくなった。
 彼は躊躇なくその家に入り、草履を脱いだ。洞窟からここまで、温かく照る太陽と心地よい風を浴びて幾分か水分を飛ばした服はまだ重く、ポタポタト歩くそばから廊下を濡らした。
 ここらでは珍しく、この家には風呂があった。
 右手にある脱衣所に入り、赤子を抱きながら器用に濡れて肌に張り付く衣を脱いだ。風呂場へと足を進め、木戸を開く。湯船の木蓋を壁に立てかければ、湯気が立ち込める。朝から焚いていた火は適度な温度の湯を作っていた。かけ湯をすると冷えた身体がじんわりと熱に癒される。赤子にも優しく湯をかけ、抱き抱えたまま湯船に入った。身体の先からじわじわと温まっていく。赤子の肌も次第に赤く染まっていった。
 膝を経て、そこに座った赤子の頭を乗せる。
「すまない、……すべて私の所為だ」
 泣きも笑いもしないその小さな生命に深く反省の意を示す。思いつめた彼に、赤子は許すとでも言うように、初めて笑みを見せた。

 赤子を連れて帰った男はマカといった。
 生まれおち、一週間以上たったというのに子の成長は遅かった。成長を促すために子はマカから力を分け与えられた。しかし、未だに立ち上がって歩くことすらできない。
 マカの後ろをはいはいをしながら歩く姿はまるで雛鳥のようだった。刷り込みなのか、赤子はよく彼に懐いた。
 名が無いことを不憫に思ったマカが子に名を付けた。花が咲いたように笑うからと、ハナと呼ばれるようになった。
「ハナ、食事にするか」
 きゃっきゃと喜びを体現する。
 魚の焼けるにおいと共に台所にいたマカが戻ってきた。手に皿を持ち、卓にそれを置くと胡坐を掻いて座る。抱きあげられたハナは足の間に下ろされた。
「お前も歯が生えたんだ、そろそろ魚でも食わぬか?」
 マカに箸で身を解された魚が、口元に運ばれた。嫌だとばかりにハナは顔を背ける。行き場を失ったそれはマカの口の中へと消えた。
 しばらくマカの食べる姿を見ていたハナはもぞもぞと動き出し、肌の見える浴衣の隙間から顔を手を無理やり入れた。色の違う二つの飾りを見つけ、片方を口に含んだ。
 小さな歯で懸命に皮を破ると、待ち望んでいたマカの血を啜った。これは生きる為に必要だと理解していたハナは気の済むまで血を口に含んだ。
「なっ」
 痛みから、マカは眉をひそめた。しかし、それを止めようとはしなかった。愛おしげに向けられた瞳にハナは気が付かない。

 一月もすればハナは大きく育ち、元服そ迎えた少年程の背丈になった。羽を自在に出せるようになったハナの背に、それはない。
 ハナはマカから色々なことを教わった。本来であれば、各々で育ち山を守るのだという。名も自然と己の中に浮かぶと言われたが、ハナは不思議と自分の名前が分からなかった。困ったよう考え込むマカを見て、ハナはこの名前でいいと笑って言った。マカの付けてくれた名前が好きだと告げた。
「私がお前と共に暮らすのは、私がお前に当てられるはずであった力を奪ってしまったからだ」
 マカはハナが生まれる前、雷撃をその身に受けたという。傷を治すために山の力を多く吸収した結果、ハナの発育は遅れた。そして、責任を感じたマカはハナを育てることにしたという。今では罪滅ぼしというよりも守るべき者でり、共に過ごす存在であると滅多に見せない笑みを浮かべて言った。
「なら、俺は幸せ者だな。マカと居られるんだから」
 そういうと、マカは優しく柔らかいハナの髪をなでた。気持ち良さに撫でるマカの手に頭を少し押し付けた。

「マカ、今日は何をするんだ?」
 変わらずマカの後ろを付いて回るハナだった。この頃から、マカの様子がおかしかった。睡眠をとっても疲れが顔に現れ、大丈夫だという声にも覇気が薄れていた。
「最近、また里の者が山奥まで来ていると皆が口々に言っていたからな。追い返そうと思う。あそこは谷が深く危険だ」
 それだけ言うと見事な黒い翼を広げ、山のものから報告された地点へと飛んでいった。ハナもそれに倣って羽を出し追いかけた。色は変わらず灰色だ。
 木々の生える山の中で翼は邪魔なものだった。間隔の狭い木々は羽を捉えて行く手を阻む。
 木の枝に降りた二人は羽を仕舞い、自慢の跳躍力で枝々に移り、見回った。
 ハナは以前、マカになぜ村人を守るのかと聞いたことがあった。
「山のヤツらを食らうのに、何で村人なんか助けなきゃなんないんだ?」
 その日は奥地で迷った者を里まで導いていた。彼らは時に恐れられ、時に崇められる存在であった。
「人は、多くすぎ木々や落ち葉を拾い持ち帰っていく。多すぎては直に山が死ぬ。だからだ」
 先日、知り合いの狐を狩られ、憤ったハナには理解できなかった。人を優先するのかと。同じ山に住む動物たちはどうでもよいのかと。
「……人の方が偉いのかよっ?」
 優しいマカはどこに行ったのか。山のものをそんなに簡単に捧げられるのか。怒りと悲しみでハナは心を乱した。
「そうではない。良いか、ハナ。我々は万能ではない。すべてを守るなど不可能だ。第一、我々が守っているのはこの山だ。人でも動物でもない。それを忘れるな」
 人だけでも動物だけでも駄目だという。すべて、多すぎては駄目なのだと。均衡を保たなければ、すべてが失われてしまうのだとマカは語った。
「持ちつ持たれつということだ。今は分からずとも、いずれ理解する日が来よう」
 腑に落ちないハナの頭を優しく撫で、マカは微笑した。

 法衣を着たマカの背を追う。ハナの服はすべてマカのお下がりだった。解れた個所は、丁寧にマカによって縫い直され、違和感なく着られた。不満に思ったことはなく、大好きなマカの服だと喜んだ。
 暫く歩みを進めると、報告通り、人が見えた。年は幼く、ハナよりも小さい少女だった。どうやら迷い込んでしまったようだ。
「ひっく、うっぐ、おっがー! サヨは、サヨはこごさ、おる、ううっ……おるよぉ!」
 泣きながら母親を探す少女にマカは優しい声色で話しかけた。姿は見られぬよう、注意を払っていた。
「娘、こっちへおいで。母はこっちにおるぞ」
 少女は驚き、涙が引っ込んだ。キョロキョロと辺りを見回し、声の主を探す。見当たらないそれに、不安になりながらも頼るしかないと、信じてもいい存在なのではと、幼いながらに悟った。
「どこ? どこさおるんっ?」
「私はこの山に住む者。村まで送ろう。ついて来なさい」
 マカはわざと葉を揺らしながら、音を立て村まで進んでいく。少女が見失わぬよう、時折後ろを確認しながら。
 ハナは少女の後ろに付き、動物が来ぬよう見張った。
 半刻ほど経てば、村が見えてきた。少女は再び涙を溜め、村へと帰って行った。
「神様、ありがとう!」
 その言葉を残して。
「うむ。何事もなくここまで来られて良かった。ありがとう、ハナ」
「マカが言うことじゃないだろ、それ」
 褒められたのが嬉しく、言葉とは裏腹にハナの顔は緩んでいた。
 ハナは成長した今でも、マカの血を欲した。マカの衰えを感じ、心配しながらも。快く与えてくれるマカの好意に甘えていた。

 月日は流れ、寒さ染みる冬へと季節が移り変わった。
 晩秋からマカが寝込む日が続くようになった。呑み込みの早いハナは一人でもマカの代わりに見回りをし始めた。時折、仲間に会い情報を交換し合う。身体もマカほどに成長し、立派な青年の姿をしていた。
「ただいま、マカ。山芋を採ってきたぞ」
 敷いたままになってしまっている布団に彼は横たわっていた。頬は痩け、顔色もあまりよくはなかった。
 これ以上は駄目だと思ったハナは、マカの血を吸わなくなった。次第に元気になるハナと、弱っていくマカ。
 血を、力を奪ってしまったからではないかと何度もマカに謝った。マカはそれを否定し、自分の意志であったと言った。零れそうになった涙を気合いで抑え、分かったと伝えた。
「ありがとう、ハナ」
「ちょっと待ってて。今焼くから」
 ハナは台所で山芋の泥を落とし、焦げ色が付くまで焼いた。それを皿に盛り、マカのもとへ戻った。
 側に座り持ってきた山芋を箸で摘み、マカの口へと運んだ。
「幼き頃とは反対だな」
 おかしそうに笑うマカを見て、ハナは安心した。
「なんだよ、膝の上にでも乗るか?」
 ハナはおどけた口調で返す。
「……嵐が来るかもしれないな。気をつけるんだぞ」
 マカはしゃきしゃきと咀嚼した山芋を嚥下し、真剣な顔で空を見上げた。経験からか、空や風の変化でマカは天候の予想を付けた。ハナにはまだそれを当てることはできない。
「ん。分かった」

 翌朝、マカの言うとおり雨が降り、強風が吹いていた。災害に備え、ハナは山を見回った。
 空気の厚みに、意志とは逆の方向へと飛ばされそうになった。どうにか耐え、灰色の翼を動かした。
 ゴロゴロと鳴り響く雷は、いやに近い。その音に思わず耳を塞ぎたくなった。
 ハナは里の子が川で溺れているのを見つけた。一瞬躊躇したが、ハナは側まで寄った。浮き上がったその時、子供の手を引き、身体を持ち上げた。思いの外軽いそれに驚いた。人とはこんなにも軽いのか、と。
 咳き込む子供を横抱きすると、里まで飛んだ。あまり水を飲んでいないようだ。森のものたちに対し罪悪感を覚えながらも、村の入り口まで子供を運んだ。下ろすと、寒さも相まって朦朧としていた子供と視線が交差した。
「かみさま……あり、がとう」
 何も告げず、ハナは再び空中へと飛んだ。心臓は激しく脈動し、落ち着けない。子供の森のものと同じ反応に、ハナは戸惑うばかりだった。
 雷が先ほどより近くなってきた。そちらにも警戒を向け、山を見渡す。
 ふと、目の前に黒い影見えた。こちらへ向かって飛んでくる。ゆっくりとだが、形がはっきりとしていった。緩く結われた髪は、ぴったりと身体に張り付き、黒い翼をはためかせている。マカだった。弱った体でハナの側までやってきた。
「何で来たんだ! マカは家で寝てろよ。じゃないと……」
「大丈夫だ。これしきの事でへこたれる私ではないぞ」
 息は上がり、倒れても不思議ではない。なぜ来たかなど分かるわけもなかった。
「帰るんだ。お願いだから、家にいてくれ」
 こんなところに居られる方が、ハナの注意を散漫させた。心配で気が気でない。
「ならば、一度共に帰ろう。渡したいものがあるのだ」
「今じゃなきゃ駄目なこと?」
「ああ」
 真剣な瞳のマカに反論を提示することができなかった。大人しく、マカの後ろに付いて家へと帰る。
 マカは座椅子に座り、背中を預けた。そうでもしなければならないほど、マカは衰えていた。
「……見ての通り、私はもう後がない」
 そんな言葉聞きたくはなかった。分かっていたことだったが、本人の口から発せられるそれは辛いものだった。
「そこでだ、ハナ。私を喰らえ」
 何を言われたのかハナには理解できなかった。否、理解しまいと脳が伝達を拒絶したのだ。
「何、別に肉を食えと言うてる訳ではない。以前のように我が血を啜ればいい」
「いやだ。そんなことすれば、俺はマカを失うことになる。そんなの嫌だ!」
 苦しそうな表情でハナを見つめた。ハナは泣きそうになる自分を叱咤して、涙を食い止める。
「私とて、お前を失うのは怖い。だからこそ、血を喰らえと言っているのだ。弱きお前があの雷に当たりでもしてみろ。昔の私のようには行かぬぞ。お前は私を置いて彼岸窟へ帰るってしまう」
 ゆるゆると首を横に振る。しかし、マカはハナの頭をつかみ、首筋へと近づけた。
「私はお前と共にありたい。親として、家族として、最後の願いくらい叶えてくれ」
 ハナの心臓はどくんどくんと速度を上げた。マカの血が得られることは、至福のものだった。ぽかぽかと体の芯から温まり、力が湧いてくるのだ。己の力が戻ってくるような、不思議な感覚に襲われる。
「いやだ、絶対に、……いやだ!」
 グッとマカを押し返した。しかし、渾身の力を籠められて、マカの首筋に歯が当たった。鋭い犬歯は肌を刺し、ぷくりとそこから紅い雫ができる。歯を伝い、舌にそれが流れた。甘く、中毒性があり、普段はマカが止めろと言うまで摂取することを止められなかった。
 今、止める者はいない。だんだんと、マカの身体は冷えていった。指先から順に、唇はもう変色して青味がかかっている。もともと白かった肌は蒼白だ。
 吸える血がなくなると、漸くハナは首筋から離れた。後悔の念に襲われる。こぼれる熱い涙が、崩れ落ちるマカの頬に流れた。
「あ、……あ、ああ!」
「なく、な。……これから、は、お前が、この山を……守る、番だ……」
 それがマカの最後の言葉だった。混乱するハナは、ぎゅっと冷たいマカだったものを抱き締めた。鳴き声は雷が消し去った。
 ハナの心は嵐の様に、落ち着きを見せない。しかし、本能が動いた。
 涙か雨か分からないもので頬を濡らし、助けを必要とする声に耳を立てる。がむしゃらに飛び回った。ハナを止められる者はもう居ない。
 今、一番高く、立派な木が雷撃の標的となろうとしていた。それは御神木であり、マカの母でもあった。奇しくも、ハナが誕生した日のマカと同じ状況であった。マカは母を守るために雷に打たれたのだ。
 何度も愛おしそうに話しかける姿を見ていた。マカの大切にしているものだった。
 償いなど、もうできない。だが、望みは叶えることはできるだろう。マカと同じ道を歩もう。マカが望んだ、ハナの使命でもある、山を守ること。
 まっすぐに、神木へ飛んだ。間に合うかどうかは五分五分。痛みの恐怖など、マカが側にいると思えばどうってことないように思えた。
 閃光が大木めがけて降ってくる。貫くはハナの身体。背中に当たったそれは、ハナの意識を奪った。
 目覚めると、隣でマカが寝ていた。いや、マカだったものが横たえていた。ハナは無理やり身体を起こし、マカを抱き上げた。
 運んでくれたであろう仲間に感謝し、翼を広げ、生まれた場所にマカを連れていった。
 彼岸窟に躊躇なく入り、温泉まで足を止めずに歩いた。
 ぽちゃんと湯に入り、マカをそこに沈めた。暫く沈んでゆくマカを見つめていると、マカの身体はブクブクと泡になって消えた。
 ハナは洞窟を出て、家へと帰って行った。その背には、本来持つべき黒く光る翼があった。

end

***
マカの視点カットしてラブラブシーンを追加しました。
あと、なんでマカが弱ってるのかとかどうしてハナの翼が黒くなったかなんかも分かりやすくしたつもり。
足りなさそう(´・ω・`)


11/26/10





改編前





 それは、酷い嵐の夜だった。雷鳴は轟き、光は何度も山肌を刺した。
 ピカッゴロゴロ。
 間隔の空かないそれに、人々は怯え、山の物たちは落雷による火災から逃げ走った。
 そんな荒れる山の奥に、深い洞窟があった。中は複雑に入り組んでおり、迷った者は最後、黄泉に誘われるとして彼岸窟と呼び、山麓の村人は避けていた。
 最奥には泳ぎ回れるほど大きい温泉が湧いている。水蒸気によって天井からポタポタと滴が落ちていた。それは、洞窟全体に渡り、あちらこちらに水滴が跳ねる。
 稲妻が洞窟のすぐ傍に落ちた。その光は暗く闇に包まれた彼岸窟を照らし、中に光が射した。滴が反射しあい、奥まで微かな光を届ける。
 ぽちゃん、と温泉に落ちた光は一滴の雫。それが個体となり、深い深い水底に転がった。少し経つと、丸いその個体は受精卵のように分裂を始めた。まるで早送りをするように、それは人のそれと同じ成長を見せる。温水が羊水のように少しずつ形どられて行く身体を包み、臍帯のように大地のエネルギーを送った。
 三日も経てば、生まれようとする赤子と同形をした生物になった。一つ違うとすれば、その柔らかい背に灰色がかった小さな翼を生やしていることだ。
 嵐の夜から六日が経った。暗い洞にザリザリと足音が響きわたる。山伏の様な法衣の上からも分かる無駄のない身体に、しっかりとした筋肉を備えた男のように見える。バシャバシャ温泉に入り、中央の一番深い水底へと潜った。結われた髪は長く、水中で揺れる。
 不思議なことに、彼は息をしていた。温かな水の中で。
 人成らざる者の面は美しいが故に、感情を表さないそれは酷く冷たく感じる。
 水を掻く手足はあの赤子の所まで大きく進む。彼は赤子をそっと抱き上げ、水面に浮上した。岸までゆっくりと前進し、地上へと上がった。
 意識的に肺を窄め、満たされていた水を吐き出す。自力で出来ないであろう赤子に対しては人工呼吸の要領で水を吐かせた。これが赤子にとって、地上で初めての呼吸だった。
 来た道を赤子と共に戻った彼は、今まで見あたらなかった背の翼を生やし、羽ばたかせ山の頂上に向かった。翼は赤子と同じ形をしていたがる大きさも色も異なる物だった。夜闇の様に黒く、彼の背ほども大きくしっかりとしていた。
 山頂にあるのは古びた社。その裏手に社と同じ年代に建てられたであろう茅葺き屋根の少し大きな家屋。
 彼は躊躇無くその家に入り、草鞋を脱いだ。洞穴からここまで、暖かく照る太陽と心地良い風を浴びて幾分か水分を飛ばした服はまだ重く、ポタポタと歩く側から廊下を濡らした。
 ここらでは珍しく、この家には風呂があった。
 右手にある脱衣所に入り、赤子を抱きながら器用に濡れて肌に張り付く衣を脱いだ。風呂場へと足を進め、木戸を開く。湯船の木蓋を壁に立てかければ、湯気が立ち込める。朝から焚いていた火は適度な温度の湯を作っていた。かけ湯をすると冷えた身体がじんわりと熱に癒される。赤子にも優しく湯をかけ、抱き抱えたまま湯に浸かった。身体の先からじわじわと温まっていく。赤子の肌も次第に赤く染まっていた。
 膝を立て、そこに赤子の頭を乗せる。
「すまない、……すべて私の所為だ」
 泣きも笑いもしない小さな生命に深く反省の意を示す。思いつめた彼に、赤子は許すでも言うように、初めて頬の筋肉を動かし笑みを見せた。
 彼はマカと言う名を持っていた。この社の直ぐ側にある大きな御神木の雫から生まれ、この山の主として暮らしている。この山には彼の同族がほかに二人いた。彼らは互いに気配を感じ取り、居場所を知ることができる。
 嵐のあの夜、彼らは火事に川の氾濫に奔走していた。彼らは山を守る義務、いや、その為に生まれてきた存在だった。
 マカは母である神木の危機を感じ取った。すぐさま神木へと羽を動かし、彼女の元へ向かう。そして、彼女が受けるはずであった雷撃をその身体一つで受け止めた。
「っ!」
 その衝撃に脈はその運動を止め、マカは重力に従い地面まで十三間はあろう距離を急降下した。
 突風がマカを僅かに押し上げた。
 勢いは微々たる変化をつけたが、叩きつけられた身体は反動に浮き、何本も骨がやられた。だが、運の良いことに心の蔵はその動きを再開した。
 力なく倒れたマカは無意識下、必死に山の力を吸収した。折れた骨はそこからつなぎ合わさり、雷に焼けた肌も細胞を再構築し、ゆっくりと元の姿に戻ろうとする。
 マカが目を覚ますと見慣れた天井が瞳に映った。仲間が神木の下に倒れるマカを運んだのだ。
 身体を動かせば、それを拒絶するように悲鳴を上げる。痛みが身体に突き刺さる。
「ふー、ふーっ」
 自分を落ち着かせるように深呼吸を繰り返した。痛みから解放されたいと、力を欲した。しかし、これ以上吸えば二人に申し訳が立たない。山の力は種族単位で枝分かれして送られる。幾夜寝たかも分からぬマカには、どれほど蓄えが有るか判断つかなかった。
 また、山にも休息と再び創り出す時間が必要だ。一日二日でどうこう出来る訳ではない。
 思考を止め、瞼を閉じる。力を付けなければならないのはマカも同じだった。痛みを押し込めながら眠りに落ちた。
 次に目覚めると、同族の、知らぬ気配を感じた。
 何とか起き上がれるようになり、布団から出た。昼に近いのだろう、太陽は高く照っていた。
 マカは風呂に入り外出する準備をした。
 風呂から出ると軽く庭に生る果物をもぎ、それを腹に入れた。本来、彼らには食事を摂る必要はない。ただマカは娯楽として、習慣として軽く何か口に入れるようにしていた。
 外に出るとまず仲間の家向かった。感謝の気持ちと、寝込んでいる間に起きたことなどを聞き、情報を仕入れた。どうやら予想した以上に酷い火事もなく、土砂崩れも大したことなかったようだ。
 それを聞くとマカはほっと胸を撫でおろした。
 マカが雷に撃たれてから六日が経っていたことも知った。復興作業も済み、普段暮らしに戻ったと笑いながら言う仲間に心からの感謝を示し、マカは気配のある洞窟へ向かった。
 暗く、湿度の高いそこは幾らか暖かい。奥に進むにつれて、湿度も温度も上がっていく。薄く硫黄の匂いが漂う。水滴が落ちる音に休みはない。
 歩みを進めると、大きな温泉が現れた。マカはその中心に仲間の存在を感じ取り、迷いなく入って行った。温度は広いせいか、少し熱いと感じるほどで問題なかった。
 彼らは水中での呼吸が可能だった。元は水から創られた身体だ。相性が悪い訳がなかった。
 マカは手足で水を掻き、気配のある方へと潜った。すると、水底で眠る赤子を見つけた。それを抱き上げると、再び水面へと泳ぎだした。
 マカが赤子を家に連れて帰ってから、数日が経った。生まれおち、一週間以上経過しているというのに子供の成長は遅かった。成長を促すために、マカの力を分けているにも拘らず、未だに漸くまだ歩くことができなかった。はいはいをしながらマカの後ろを歩く姿はまるで雛鳥のようだった。刷り込みそのものなのか、彼によく懐いた。
 赤子赤子と呼ぶのは可哀そうだと思い、マカは名をつけた。花が咲いたように笑うからと、ハナと呼ぶことにした。本来であれば自ずと名前が分かるもの。マカも自我を持つ頃、それを知った。しかし、ハナが知るのはまだ少し先であろう。仮名として与えることにした。
「ハナ、食事にするか」
 きゃっきゃと喜ぶ姿をみると、言葉を理解している様に思われた。
 マカは先日採った果物の皮を剥き、皿に盛った。魚を焼くと新たな皿を出して乗せた。それらを居間の机に運んだ。腰を下ろすと、後ろについていたハナを抱き上げ胡坐を掻いた足の上に乗せた。
「お前も歯が生えたんだ。そろそろ梨でも食わぬか?」
 剥いた梨をハナの口元まで運ぶ。しかし、嫌だとばかりに顔を背けられてしまった。仕方なく、マカはそれを自分の口の中へと入れた。
 その後も口に入れては咀嚼をし、残り梨が一切れとなった時だった。ハナがもぞもぞと動き、マカの着ていた浴衣を肌蹴けさせた。何をしているのかと疑問を持ちながら見ていると、驚いたことに生えたばかりの乳歯で乳輪に噛みついてきた。
「なっ」
 じんじんと鈍い痛みがマカを襲う。噛む理由は分かった。ハナは血を欲したのだ。栄養として与えられている血を。
 外部からエネルギーを与えるよりも、内部に送り込む方が効率がよく、力の籠め易い血をハナにやっていた。普段は指を切って与えていたにも拘らず、なぜか胸から血液を摂取しようとした。
 赤子の本能か。しかし、動物とは言い難い存在の彼らにそんな習性はなかった。
 ちゅうちゅうと飲む姿は人の子と同じだった。マカは自分の子ではないかとい錯覚に陥る。愛おしいと感じた。
 一月もすればハナも大きく育ち、元服を迎えた少年ほどの背丈になった。羽は消す事が出来るようになったのか、その背にはなかった。
「マカ、今日は何をするんだ?」
 変わらずマカの後ろに付いて回るハナの姿があった。マカもそれを良しとして、後継者を育てる気持ちでハナを連れ歩いた。  この頃からだったか、マカは自分の身体に違和感を覚えた。正体は分からないが、疲れが取れにくいと言った不調で、年でも取ったのかと気楽に考えていた。
「最近、また村人が山奥まで来ているらしいからな。追い返そうと思う。あそこは谷が深く危険だ」
 それだけ言うと見事な黒い翼を出し、報告された地点に飛んだ。ハナも同じく羽を広げるが、色は変わらず灰色をしていた。
 木々の生える山の中では翼は邪魔のものだった。間隔の狭い木々は羽を捕らえて行く手を阻んだ。
 木の枝に降りた二人は羽を仕舞い、自慢の跳躍力で枝々に移り、見回った。
 ハナは以前、マカになぜ村人を守るのかと聞いたことがあった。
「山のヤツらを食らうのに、何で村人なんか助けなきゃなんないんだよ」
 その日は奥地で迷った村人を村まで山神として導いた。彼らは時に恐れられ、時に崇められる存在だった。
「人は、多すぎる木々や落ち葉を拾い持ち帰っていく。多すぎては時期に山が死ぬ。だからだ」
 先日、知り合いの狐を狩られて憤ったハナには理解できなかった。人間だけを守るのか。同じ山に住む動物たちはどうでも良いのか、と。
「……人の方が偉いのかよ!?」
 優しいマカはどこに行ったのか。山のものをそんなに簡単に捧げられるのか。怒りと悲しみでハナは心を乱した。
「そうではない。良いか、ハナ。我々は万能ではない。すべてを守るなど不可能だ。第一、我々が守っているのはこの山だ。人でも動物でもない。それを忘れるな」
 人だけでも動物だけでも駄目だという。すべて、多すぎては駄目なのだと。均衡を保たなければ、すべてが失われてしまうのだとマカは語った。
「持ちつ持たれつということだ。今は分からずとも、いずれ理解する日が来よう」
 腑に落ちないハナの頭を優しく撫で、マカは微笑した。
 法衣を着たマカの背を追う。ハナの服はすべてマカのお下がりだった。解れた個所は、丁寧にマカによって縫い直され、違和感なく着られた。不満に思ったことはなく、大好きなマカの服だと喜んだ。
 暫く歩みを進めると、噂通り、人が見えた。年は幼く、ハナよりも小さい少女だった。どうやら迷い込んでしまったようだ。 「ひっく、うっぐ、おっがー! サヨは、サヨはこごさ、おる、ううっ……おるよぉ!」
 泣きながら母親を探す少女にマカは優しい声色で話しかける。姿は見られぬよう、細心の注意を払いながら。
「娘、こっちへおいで。母はこっちにおるぞ」
 少女は驚き、涙が引っ込んだ。キョロキョロと辺りを見回し、声の主を探す。見当たらないそれに、不安になりながらも頼るしかないと、信じてもいい存在なのではと、幼いながらに悟った。
「どこ? どこさおるんっ?」
「私はこの山に住む者。村まで送ろう。ついて来なさい」
 わざと葉を揺らしながら、音を立て村まで進んでいく。少女が見失わぬよう、時折後ろを確認しながら。
 ハナは少女の後ろに付き、動物が来ぬよう見張った。
 半刻ほど経てば、村が見えてきた。少女は再び涙を溜め、村へと帰って行った。
「神様、ありがとう!」
 その言葉を残して。
「うむ。何事もなくここまで来られて良かった。ありがとう、ハナ」
「マカが言うことじゃないだろ、それ」
 褒められたのが嬉しかったのか、言葉とは裏腹にハナの顔は緩んでいた。
ハナは成長した今でも、マカの血を欲した。十分に栄養をあげたつもりだった。
 マカは体調のことはハナには告げず、快く力を分け与えた。少しずつ、力が絶えていくのが分かった。
 月日は流れ、寒さ染みる冬へと季節が移り変わった。
 晩秋からマカが寝込む日が続くようになった。呑み込みの早いハナは一人でもマカの代わりに見回りをするようになった。時折、仲間に会い情報を交換し合う。身体もマカほどに成長し、立派な青年の姿をしていた。
「ただいま、マカ。みかんを採ってきたぞ」
 敷いたままになってしまっている布団に彼は横たわっていた。頬は痩け、顔色もあまりよくはなかった。
 マカの体調の変化に気がつくと、ハナは彼の血を吸わなくなった。それを原因と見なしたからだ。しかし、止めてなおマカの体調は優れなかった。一層酷くなるばかり。
 マカは年だと笑った。だが、ハナはそうは思わなかった。同じころに生まれたという仲間が至って健康だからだ。
「ありがとう、ハナ。剥いてくれるか?」
 側に座り、持ってきたみかんの皮を剥いた。程よい柔らかさで、甘そうで色も濃い。
 一房ずつ割き、上体を起こしたマカに食べさせた。
「幼き頃とは反対だな」
 おかしそうに笑うマカに、ハナは安心した。
「なんだよ、膝の上にでものるか?」
 ハナはおどけた口調で返す。
「……嵐が来るかもしれないな。気をつけるんだぞ」
 みかんを嚥下し、真剣な顔で空を見上げた。長年の経験から、空や風の変化で大体の予想をつけることができた。若いハナにはまだそれを当てることはできない。
「ん。分かった」
 翌朝、マカの言うとおり雨が降り、強風が吹いていた。災害に備え、ハナは山を見回った。
 空気の厚みに、意志とは逆の方向へと飛ばされそうになった。どうにか耐え、灰色の翼を動かした。
 ゴロゴロと鳴り響く雷は、いやに近い。その音に思わず耳を塞ぎたくなった。
ハナは狸の子が独り逃げているのを見つけ、側に降りた。六匹で暮らすあの狸の子だとすぐに分かった。
「坊主、落ち着け。今親のところまで連れてってやる」
 当てはなかった。しかし、地上で見て回るよりも空中から探す方が断然早いだろう。狸を抱き上げ、再び冷たい雨の降る空へと舞い上がった。
木々の近い位置で旋回しながら家族を探した。思いの外、それは早く見つかり家族のもとへと狸を返した。礼を言うように擦り寄ってきた子狸の頭をなで、他に異常がないか巡回した。
 雷が先ほどより近くなってきた。そちらにも警戒を向け、山を見渡す。
 ふと、目の前に黒い影見えた。こちらへ向かって、ゆっくりとだが、形がはっきりとしていく。緩く結われた髪は、ぴったりと身体に張り付き、黒い翼をはためかせている。マカだった。弱った体でハナの側までやってきた。
「何で来たんだ! マカは家で寝てろよ。じゃないと……」
「大丈夫だ。これしきの事でへこたれる私ではないぞ」
 息は上がり、倒れても不思議ではない。なぜ来たかなど分かるわけもなかった。
「帰るんだ。お願いだから、家にいてくれ」
 こんなところに居られる方が、ハナの注意を散漫させた。心配で気が気でない。
「ならば、一度共に帰ろう。渡したいものがあるのだ」
「今じゃなきゃ駄目なこと?」
「ああ」
 真剣な瞳のマカに反論を提示することができなかった。大人しく、マカの後ろに付いて家へと帰る。
 マカは座椅子に座り、背中を預けた。そうでもしなければならないほど、マカは衰えていた。
「見ての通り、私はもう後がない」
 そんな言葉聞きたくはなかった。分かっていたことだったが、本人の口から発せられるそれは辛いものだった。
「そこでだ。ハナ、私を喰らえ」
 何を言われたのかハナには理解できなかった。否、理解しまいと脳が伝達を拒絶したのだ。
「何、別に肉を食えと言うてる訳ではない。以前のように我が血を啜ればいい」
「いやだ。そんなことすれば、俺はマカを失うことになる。そんなの嫌だ!」
 苦しそうな表情でハナを見つめた。ハナは泣きそうになる自分を叱咤して、涙を食い止める。
「私とて、お前を失うのは怖い。だからこそ、血を喰らえと言っているのだ。弱きお前があの雷に当たりでもしてみろ。昔の私のようには行かぬぞ。お前は私を置いて彼岸屈へ帰るのだ」
 ゆるゆると首を横に振る。しかし、マカはハナの頭をつかみ、首筋へと近づけた。
「私はお前と共にありたい。親として、家族として、最後の願いくらい叶えてくれ」
 ハナの心臓はどくんどくんと速度を上げた。マカの血が得られることは、至福のものだった。ぽかぽかと体の芯から温まり、力が湧いてくるのだ。
「いやだ、絶対に、……いやだ!」
 グッとマカを押し返した。しかし、渾身の力を籠められて、マカの首筋に歯が当たった。鋭い犬歯は肌を刺し、ぷくりとそこから紅い雫ができる。歯を伝い、舌にそれが流れた。甘く、中毒性があり、普段はマカが止めろと言うまで摂取することを止められなかった。
 今、止める者はいない。だんだんと、マカの身体は冷えていった。指先から順に、唇はもう変色して青味がかかっている。もともと白かった肌は蒼白だ。
吸える血がなくなると、漸くハナは首筋から離れた。後悔の念に襲われる。こぼれる熱い涙が、崩れ落ちるマカの頬に流れた。
「あ、……あ、ああ!」
「なく、な。……これから、は、お前が、この山を……守る、番だ……」
 それがマカの最後の言葉だった。混乱するハナは、ぎゅっと冷たいマカだったものを抱き締めた。鳴き声は雷が消し去った。  ハナの心は嵐の様に、落ち着きを見せない。しかし、本能が動いた。
 涙か雨か分からないもので頬を濡らし、助けを必要とする声に耳を立てる。我武者羅に飛び回った。ハナを止められる者はもう居ない。
 今、一番高く、立派な木が雷撃の標的となろうとしていた。それは御神木であり、マカの母でもあった。奇しくも、ハナが誕生した日のマカと同じ状況であった。
 何度も愛おしそうに話しかける姿を見ていた。マカの大切にしているものだった。
 償いなどできない。だが、望みは叶えることができるだろう。マカと同じ道を歩もう。マカが望んだ、ハナの使命でもある、山を守ること。
 まっすぐに、神木へ飛んだ。間に合うかどうかは五分五分。痛みの恐怖など、マカが側にいると思えばどうってことないように思えた。
 閃光が大木めがけて降ってくる。貫くはハナの身体。背中に当たったそれは、ハナの意識を奪った。
 目覚めると、隣でマカが寝ていた。いや、マカだったものが横たえていた。ハナは無理やり身体を起こし、マカを抱き上げた。
 翼を広げ、生まれた場所にマカを連れていった。
 彼岸屈に躊躇なく入り、温泉まで足を止めずに歩いた。
ぽちゃんと湯に入り、マカをそこに沈めた。暫く沈んでゆくマカを見つめていると、マカの身体はブクブクと泡になって消えた。
ハナは洞窟を出て、家へと帰って行った。その背には、黒く光る翼があった。

end

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そのうち加筆修正してエロを入れたいw
これはあくまでもサークル用だしww


11/13/10