この世界に人間が百人居るとする。男は六十人、女は四十人。仮に男女で二人組を作ったとしても、男は十人余ってしまう。
 しかし、その世界は所謂、地球の常識とは違った。子孫繁栄する為に必要なものは愛だけだからだ。男女という性の間に壁は限りなく低く、時として男でも子を生す事ができた。
 生とは、愛し合い強く、強く望みさえすればその身体に宿すことのできる、神の与えし存在だからだ。
 つまり、この世界において恋愛は性別という概念を取っ払い、人そのもので判断するものなのだ。恋人たちは手を繋ぎ、仲も睦まじく街を歩く。それは、男女であったり男同士であったり女同士であったり。当然のことながら婚姻も男女間でなければならないと言う訳ではない。誰もが恋愛に自由に生きられる世界だった。
 そんな世界の日本、東京の某区に一人の少年が居た。羽田康介は公立高校に通う、特筆すべき物を持たないどこにでも居る様な、少しやる気の出ない高校生だった。毎日を同じように生き、友人ともある程度の関係しか持たず、親友と呼べるものはいない。ありのままを見せれるのは、家族だけだった。だが、男として話し合えるとなれば別だ。康介の両親は二人とも女で兄弟も姉一人。家に男は康介一人だった。
 いくら壁がないと言っても、悩みや考え方は人それぞれであり男女それぞれだ。
 特に性に関して、話せる勇気はなかった。誰にも言えない、自分だけの秘密。隠し通さなければ、奇異の目で見られてしまうのではないかという不安。だからか、深く関わることを苦手とした。
「康介、今日お母さんたち外でごはん食べるから。お姉ちゃんもバイトで遅くなるって言ってたから、夕飯適当によろしくね」
 学校に行こうと靴を履いていた康介に母の一人が声をかけた。母たちは結婚して二十年以上経った今でも、新婚当時のように仲良かった。いつも振り回されるのは子供二人だ。
「りょーかい。俺も適当に食べてくるから大丈夫。そんじゃ、行ってきます」
 家を出て駐車場に止めてある自転車を道路まで引き、サドルに跨った。ペダルを踏み、学校までの十五分を車輪で進んだ。風は刺すように冷たく、康介はぶるっと身体を震わせた。
 学校に着くと駐車場に愛車を止め、下駄箱まで歩いた。靴を中履きに変えようと二年三組の自分の出席番号の書かれた靴箱をあけた。中には一枚の白い封筒。驚きのあまり康介は、動くことができなかった。ただそれを見つめる。
 間違えたのではないかと思い、番号を確認した。やはり自分の靴箱だ。手紙をとると、宛名には康介の名前があった。きょろきょろとあたりを見渡し、誰にも見られていないことを確認すると学生鞄にそっと仕舞う。中靴に履き替え教室ではなく一度トイレに向かった。
 確認し終えた康介は普段通りの時間を過ごした。
 手紙の中味は案の定ラブレターといわれる類のものだった。放課後の屋上で待っていると。差出人の名前はなかった。
 行くべきか行かぬべきかを考えているといつの間にか放課後になっていた。時間はある、相手にも失礼だと言い聞かせて重い身体を屋上まで歩かせた。
 普段から開放されている屋上は誰でも来れる場所だった。冬が間近に迫った今、殆ど訪れる者はいない。
 ガチャっと風の強く吹く屋上に入った。先客は一人。扉のそばに立つその姿に康介は見覚えがあった。
「日高?」
 出席番号が康介の次である日高がそこにいた。寒かったのだろう、彼の鼻は赤く染まっていた。
「よ。来てくれたんだな。こないかと思った」
 失礼だが確かにその可能性もあっただろうと康介は思った。
「まあ、流石に人の気持ちは踏みにじれねぇだろ」
 扉を閉め、そこに寄りかかった。鉄のそれは冷えて、一層康介の体温を奪った。
「まあ、アレに書いた通りなんだけどさ。オレ、お前のこと好きなんだわ」
 なんのときめきもない普通の会話にでも出てきそうなさらっとした台詞。
「俺はお前に特別な感情抱いてないから。悪いけど、付き合えない」
 返す言葉も感情のこもらない、ただ流れる音。
「うん、知ってる。伝えたかっただけだし。あ、でも、これからアタックしては良いだろ?」
 ショックの受けた様子のない、その姿になぜだか好感が持てた。果たして答えは必要とされているのか。
「とりあえず、親友の位置から狙ってみるから」
「はあ」
 言われることに軽い返事しかできなかった。
 何時か彼に康介は秘密を打ち明ける日が来るのだろうか。言ったところで大した反応を見せなさそうな彼に。
 康介は澄み切った空を見つめる。紅く染まったそれを見て、夕飯をどうするか考えた。

end

***
秘密は精通してないってこと!
下は短くしなきゃいけなかったのに結局あんまし短くならなかった結果。


11/08/10





 この世界では男女という性の間に壁は限りなく低く、時として男でも子を生す事ができた。生とは、愛し合い強く、強く望みさえすればその身体に宿すことのできる、神の与えし存在だった。
同性間の結構は珍しいものではなかった。昨今では異性間の結婚の方が少ないくらいだ。
 そんな世界の日本、東京の某区に一人の少年が居た。羽田康介は公立高校に通う、少しやる気の出ない高校生だった。毎日を同じように生き、友人ともある程度の関係しか持たず、親友と呼べるものはいない。ありのままを見せられるのは、家族だけだった。だが、男として話し合えるとなれば別だ。康介の両親は二人とも女で兄弟も姉一人。家に男は康介一人だった。
 いくら壁がないと言っても、悩みや考え方は人それぞれであり男女それぞれだ。
 特に性に関して、話せる勇気はなかった。誰にも言えない、隠し通さなければ秘密。奇異の目で見られてしまうのではないかという不安。だからか、深く関わることを苦手とした。
「康介、今日お母さんたち外でごはん食べるから。お姉ちゃんもバイトで遅くなるって言ってたから、夕飯適当によろしくね」
 学校に行こうと靴を履いていた康介に母の一人が声をかけた。母たちは結婚して二十年以上経った今でも、新婚当時のように仲が良かった。いつも振り回されるのは子供二人だ。
「りょーかい。俺も適当に食べてくるから大丈夫。そんじゃ、行ってきます」
 家を出て駐車場に止めてある自転車を道路まで引き、サドルに跨った。ペダルを踏み、学校までの十五分を車輪で進んだ。風は刺すように冷たく、康介はぶるっと身体を震わせた。
 学校に着くと駐車場に愛車を止め、下駄箱まで歩いた。靴を中履きに変えようと二年三組の自分の出席番号の書かれた靴箱をあけた。中には一枚の白い封筒。驚きのあまり康介は、動くことができなかった。ただそれを見つめる。
 間違えたのではないかと思い、番号を確認した。やはり自分の靴箱だ。手紙をとると、宛名には康介の名前があった。きょろきょろとあたりを見渡し、誰にも見られていないことを確認すると学生鞄にそっと仕舞う。中靴に履き替え教室ではなく一度トイレに向かった。
 確認し終えた康介は普段通りの時間を過ごした。手紙の中味は案の定ラブレターといわれる類のものだった。放課後の屋上で待っていると。差出人の名前はなかった。
 行くべきかどうか考えているといつの間にか放課後になっていた。時間はある、相手にも失礼だと言い聞かせて重い身体を屋上まで歩かせた。
 普段から開放されている屋上は誰でも来られる場所だった。冬が間近に迫った今、殆ど訪れる者はいない。
 ガチャっと風の強く吹く屋上に入った。先客は一人。扉のそばに立つその姿に康介は見覚えがあった。
「日高?」
 出席番号が康介の次である日高がそこにいた。寒かったのだろう、彼の鼻は赤く染まっていた。
「よ。来てくれたんだな。こないかと思った」
 失礼だが確かにその可能性もあっただろうと康介は思った。
「まあ、流石に人の気持ちは踏みにじれねぇだろ」
 扉を閉め、そこに寄りかかった。鉄のそれは冷えて、一層康介の体温を奪った。
「まあ、アレに書いた通りなんだけどさ。オレ、お前のこと好きなんだわ」
 なんのときめきもない普通の会話にでも出てきそうなさらっとした台詞。
「俺はお前に特別な感情抱いてないから。悪いけど、付き合えない」
 返す言葉も感情のこもらない、ただ流れる音。
「うん、知ってる。伝えたかっただけだし。あ、でも、これからアタックしては良いだろ?」
 ショックの受けた様子のない、その姿になぜだか好感が持てた。果たして答えは必要とされているのか。
「とりあえず、親友の位置から狙ってみるから」
「はあ」
 言われることに軽い返事しかできなかった。
 何時かこいつに俺の秘密を言う日が来るんだろうか。言ったところで大した反応を見せなさそうなこいつに。
 康介は澄み切った空を見つめた。紅く染まったそれを見て、夕飯をどうするか考えた。